棚橋選手は「冬の時代」をどう乗り越えたのか 新日本プロレス・棚橋選手に直撃!(後編)

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棚橋:ありますね。飲み屋さんで仲間としゃべりながら、あそこがダメだ、ここがダメだと言っているくせに、いざ会議になったら言えないという。

塩野:会議で言えばいいじゃない、という話なんですけど。

後輩には態度で示していきたい

棚橋弘至(たなはし ひろし)●「プロレス界100年に1人の逸材」棚橋弘至。立命館大学在学時からレスリングを始め、1998年2月に新日本プロレスの入門テストに合格。99年に立命館大学を卒業し、新日本プロレスに入門。10月10日、後楽園ホールでデビュー。IWGPヘビー級王者の座に君臨。2014年4月に陥落したものの、10月13日、両国大会でIWGPヘビー級王座に挑戦し、激闘の末最後はハイフライフロー2連発で勝利。第61代IWGPヘビー級王者となった。

棚橋:でも僕も性格的に、「よし、みんなで頑張っていこう」と大号令をかけるタイプではないんです。あまりリーダーシップを持ち合わせていなくて。

塩野:そうなんですか?

棚橋:はい。ただ、「いい企業の社長さんは毎朝、誰よりも早く会社に行ってトイレ掃除してる」、なんてエピソードが好きなので、自分もそうしようと。練習にしても試合にしてもプロモーションにしても、トップの人間がいちばん頑張れば、後の選手はそれ以上頑張らないと俺に追いつけない。それをつねに態度で示してましたね。

塩野:そうですね。トップのそれしかないですよね。

棚橋:僕のやり方はそうだったんですけど。

塩野:でもプロフェショナルになればなるほど、そうだと思いますね。「スター VS. その他」みたいな図式じゃないですものね。「みんなプロになれよ」という。

棚橋:もし自分だけでできなかった場合は、同志を見つければいい。大勢でなくても、1人でもいいんですよ。たとえば僕なんか、大きい外国人選手と試合をすると、どうしてもパワーで押されてしまう。だから僕はコロンと丸め込んで、ずるくスリーカウント取ったりしてたわけですよ。そういうところが真のファンからすると、強さがないとか、チャンピオンらしくない戦いに見えるから、ブーイングが起きてしまう。でももう40年近く新日本プロレスの音響を担当している遠藤さんという方がいて、たった一人、その方だけが、「タナ君、チャンピオンは勝ってなんぼだから、あれでいいんだよ」とずっと言ってくれてたんですよ。遠藤さんがいてくれたから、頑張れた。

「らしさ」とはなにか?

塩野:なるほど、そうでしたか。組織を変えるというのは本当に難しくて、かつて日本を代表するような会社だったところも、もはや伝統との戦いになっていて、なかなか変われない。私もそういう会議によく出るんですが、何か新しいことをしようとすると、必ず「うちらしさがない」という反対意見が出る。でも、本当はみんな、「らしさ」が何かなんてわからなくなってるんですよ。

棚橋:らしさ自体が残ってないのに。それはもう末期ですね。新日本とまったく一緒です。ストロングスタイルという、猪木さんがつくったものにしがみついてるんですよ。「じゃあストロングスタイルってなんだ」と言っても誰も答えられない。僕は、それなら新日本という看板は大事にしていくけど、変なしがらみとか、しきたりは取っ払っていけばいいんじゃないかと思っていました。本で読んだんですけど、「伝統は守るけれど、しきたりは壊す」という言葉だったかな。そういうモチベーションでしたね。

塩野:そうでしたか。棚橋選手は「この先、こういうことをやっていきたい」というのはあるんですか?

棚橋:そうですね。プロレスというのは、ほかの競技と違って下部組織がないんですよ。少年サッカー、少年野球からプロになるようなコースがないので、どうすればプロレスラーになれるかというビジョンが見せにくい。

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