条件が変化すれば戦略を転換すべき
しばしば、「日本が得意なのはもの作りであり、日本はもの作りに専念すべきだ」といわれる。しかし、これは、経済的な視点をまったく欠いた考え方である。日本がどの方向に進むべきかは、「日本が得意かどうか」だけで決められるものではない。「そうすることによって日本が豊かになるか、あるいは貧しくなるか」という視点が重要なのである。そして、これに関する結論は、世界経済の条件が変化すれば、変化する。
60年代から80年代にかけて、日本は製造業を発展させることによって経済成長を実現し、世界経済の中での比重を高めていった。しかし、それは、それを可能とするような技術や世界経済の条件が当時はあったからである。とりわけ重要だったのは、日本が欧米先進国に比べて比較的に低賃金であり、欧米先進国と基本的には同じ技術での製造業生産ができたことだ。そして、日本より低賃金の国はまだ工業化に成功していなかったことだ。そのために、製造業への特化が、経済的に合理的な選択となったのである。
しかし、その条件は、80年代から90年代にかけて、新興国が工業化し、情報通信技術が大転換したために、根本から変わった。それにもかかわらず、日本は80年代までの経済構造に固執している。これは、経済的に合理的な選択とはいえない。90年代の後半以降の日本が「失われた時代」に落ち込んでしまった基本的な理由は、ここにある。
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)
(週刊東洋経済2010年10月23日号)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら