コメからつくる新食材は奇跡を起こせるか 「コメネピュレ」に官民が熱視線
新食材とは決して大げさな表現ではない。従来のピューレは素材の風味や栄養が損なわれて、水のほか着色料や香料、砂糖などを加えるものがほとんど。それに対し、ネピュレは文字どおり素材をそのままピューレにした。ネピュレ社はすでに4年ほど前から果実や野菜のネピュレを商品化しており、榮太樓總本鋪「果汁飴」や山崎製パンの「イチゴスペシャル」などに使用されている。
そして今年に入り、コメネピュレの商品化にこぎつけた。4月には秋田県の農業法人「大潟村あきたこまち生産者協会」と業務提携。同協会が生産を担い、コメネピュレの量産を始めた。
コメネピュレのポイントは、パンやデザート、麺類などに使用すると素材本来のうま味を引き出し、一部の添加物などが不要になること。そしてその結果、コメの用途拡大につながることだ。
コメ農家にとっても魅力的な存在になりうる。大潟村では米粉用の多収米を原料として使用し、ネピュレに加工しても新規需要米として補助金の対象となる。今後はコメ補助金の縮小も予想されるが、同協会の涌井徹社長は「コメネピュレの需要が拡大すれば、補助金なしでも十分に採算はとれる」とそろばんをはじく。
元農水事務次官が監査役に就任
引き合いは順調だ。冒頭のポンパドウルに先立ち、9月にはコンビニ大手のローソンがコメネピュレの入った「豆パン」を発売。ほかにも複数の大手コンビニがパンなどで採用を検討している。そうなった場合、現在の生産量では賄えないため、大潟村ではライン増設を計画中だ。
ネピュレ社は次々と新手を打っている。6月には新潟県と業務提携し、新潟県産のコメの供給を受ける体制を整えた。大潟村での生産が軌道に乗れば、新潟県内の農家と手を組み、生産拠点を作る計画だ。最終的には全国レベルでコメ農家と連携する構想を持つ。
すでにパン以外の需要開拓も進めている。たとえば、冷凍にしたコメネピュレをかゆ状にしてそのまま食べる「生きているおかゆ」のコンセプト。離乳食や病院・介護食としてのニーズのほか、一般消費者にも手軽にコメ本来の味を楽しめる商品として広がるかもしれない。もちろんこの場合、パンに使うよりもはるかに多くのコメネピュレを使うことになる。
ネピュレ社の加納社長は「2020年までに生産ラインを120に増やし、23.8万トンのネピュレを生産したい」と語る。その時のコメの利用量は約6万トン。2013年、米粉用に生産されたコメ約2万トンをゆうに超える。
5月には元農林水産事務次官でNPO法人である日本プロ農業総合支援機構の高木勇樹理事長、前中国大使の丹羽宇一郎氏が同社の監査役に就任した。国もコメネピュレに注目し始めている。コメネピュレによって長らく低迷するコメ需要が上向く。そんな奇跡のシナリオは夢物語とも言い切れない。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら