一辺倒からマルチをこなせるバランス力を--『新世界 国々の興亡』を書いた船橋洋一氏(朝日新聞社主筆)に聞く
──学ぶべきは学んで、日本が存在感を取り戻すために、五つのパワーの構築を提唱しています。第一が「バランス力」ですか。
これは言葉としてこなれていないので、説明が必要だろう。先の戦争を、上海の内山書店の創業者、内山完造氏が「一辺倒の敗北」と言った。「日本は一辺倒国家」で、一つの方向になびく。「両辺倒」でないと国はだめになると。これが私のイメージするバランス力だ。新世界の時代には日米同盟一辺倒ではやっていけない。
──それこそ新しい世界……。
一言でいえば、マルチにやらなければいけない。マルチの関係はもともと日本社会では難しい。忠誠心を中心美徳としてきたからだ。しかし、新世界ではそれでは済まされない。こっちも立てあっちも立てる。緊張はその中でほぐす。ありとあらゆるところで、マルチになる。
マルチの関係にはマルチの表現力や折衝力、文章の起案力、会議を差配する力、根回しする力、そういうものが必要になる。今や日本は相対化されている。次から次へとマルチの国際会議ばかりになっている。バランス力を持つには、「ネットワーク力」と「グローバル人材力」が同時に不可欠だ。
──ともに五つのパワーに含まれています。
早く成果を上げるには、不得意なところを補ういい組み合わせが必要であり、開かれたネットワーク力がないとそれもできない。どの国のどことどう組むか「プラン」を作っておくべきだが、日本はそれが弱い。たとえばアメリカのエール大学はシンガポールにアジア分校を作る。エールの最高の知をここで学べる。これもネットワーク力になる。