ウクライナ軍事侵攻で露呈した「NATO」の体たらく 事態に対応できるのか疑問の声が出ている

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NATOはすでにロシアの軍拡に小規模に対応し、ロシアに最も近い加盟国に部隊と航空機を追加で派遣している。2月24日、NATOはさらなる不特定多数の派兵を決定し、またNATOの東側加盟国への武力配備に制限を設けたものの、ロシアが8年前にウクライナに侵攻しクリミアを併合した際に違反している、1997年にNATOがロシアと結んだ基本文書を最終的に廃止することについて真剣な議論が行われている。

NATOのイエンス・ストルテンベルグ事務総長は、「ロシアの行動は、ヨーロッパと大西洋の安全保障に深刻な脅威をもたらし、地政学戦略的な結果をもたらすだろう」と述べている。「同盟の東側諸国に防衛目的で陸軍と空軍を追加配備し、海上戦力も追加配備している」。

NATOが忘れていたこと

NATOの東側にはロシア軍が配備されており、ヨーロッパの安全保障体制を再構築するためのロシアとの話し合いは、これまでとは異なる様相を呈している。

ロシアがクリミア半島を占領後の対応では多少の増加だったが、今回のロシアの新たな侵略に対応して軍事費を大幅に増加させ、軍隊、装備、航空機、さらにはミサイルを新たに恒久的に配備するとなると、過去30年間の同盟の比較的平和で繁栄し、自己満足していた状況に大きな打撃を与えることになるだろう。

「NATOは、気候問題やサイバー攻撃など、その中核的な責任とはあまり関係のない、重要だが、よりファッショナブルなものばかりに目を向けていた」とGMFのレッサー氏は話す。「しかし、世の中には冷酷な人間がいることを忘れていた。彼らにとって、外交政策は流血を伴うスポーツなのだ」。

NATOはすでに12年前の戦略構想を練り直し、10月1日に退任するストルテンベルグ氏の後任について議論を開始していたが、この問題は今や喫緊の課題となった。レッサー氏は、「NATOはすでに、その存在意義についてより広く考える段階に入った」と語る。

しかし、元在欧米軍司令官であり、現在は欧州政策分析センター勤務のベンジャミン・ホッジス氏は、「さらに攻撃性を増したロシアを抑止するための本格的な取り組みは、簡単なものではない」と指摘する。冷戦後のヨーロッパには、重装備に耐えられない橋や鉄道も存在し、軍隊や装備を移動させるだけでも一苦労だからだ。

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