かずおには意味がわからなかった。ここで交際が終わるのはわかっていたが、今後の婚活のためにも、なぜ手が無理なのかを聞いてみたかったので、「電話していいか」を聞き、電話をした。
電話に出たあきえは遠回しな言い方で、あれこれと手がダメだった理由を並べ立てていた。端的にまとめると、こういうことのようだ。
男性のどこに男としての魅力を感じるか。それが手である。手のきれいな人が好きだ。かずおの手はゴツゴツしていて、指も短く太い。それが、会ったときから気になっていたが、手をつながれて、手のゴツゴツ感をリアルに感じたら、生理的に合わないと思った。
結婚歴がある女性は「結婚をリアルに捉える」
かずおは私に言った。
「ドラマや映画で男の手がアップになりますよね。役者の手はそりゃあ、きれいですよ。あと、手だけアップにするときは、手タレと差し替えることがあるって聞いたこともあります。52歳にして恋愛経験のほとんどない女性は、見た目や体は52歳なんだけれど、気持ちは10代の少女のようなものなのかなと思いました」
電話を切り、自分の手の甲と平を交互にひっくり返して見ながら、ため息が出てきたという。
半年で8回のパーティーに出て、5人とマッチングをした。そのうち2人が先述の初婚女性、3人が離婚経験のある女性だった。5人とも数回の食事を終えて、連絡を取らなくなっていた。しかし、未婚と離婚経験者を比較してみると、一度結婚したことのある女性のほうが夢見がちなところがなく、結婚をリアルに捉えているような気がした。
そこで、なるべく自分と同じような境遇の、子どもはいるのだが、すでに手がかからない年齢になっている女性を探したらどうかと思うようになった。そうして、あるパーティーでマッチングしたのが、2つ年下のたえ(仮名)だった。
地方の出身で、3年前に離婚。半年前に上京をしてきて、現在は東京で働く27歳の娘の家に居候をしているという。
「服や持ち物も質素だし、『おしゃれなお店に行くと、緊張してしまう』と言う。ファミレスやチェーン店系の居酒屋に連れていっても、そこでごちそうすれば喜んでくれていたし、楽だなと思っていました」
3回目に会ったときに、たえから「結婚についてどう思っているか」を聞かれた。そこで、こんなふうに答えた。
「結婚はしたいけれど、それは出会って相手を好きになってからのことで。まずは付き合ってみないと、その先に結婚があるかどうかはわからないよね」
それを聞いたたえは、語気を荒らげて怒り出した。
「結婚相手ではなく彼女を探すという、軽い気持ちで婚活パーティーに参加しているんですか? 婚活というのは結婚するための活動のことで、遊び相手や彼女を探すためのものではありませんよっ!」
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