改良ロードスターの旋回性能が別物に進化した訳 後輪ブレーキを自動で掛ける「KPC」は何が凄いか

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さらにロードスターの場合、制動力が発生する着力点から伸びた、サスペンションの瞬間回転中心と呼ばれるトレーリング軸が、前方の高い位置、ちょうどシートに座るドライバーや同乗者の腹部あたりにくることから、他のFR車よりも車体を強く引き下げる力が発生する。だから、徐々に高まっていく、わずかな沈み込み効果をドライバーが実感しやすいのだ。

そのうえKPCはソフトウェア上での制御であることから、車両重量は1gも重くならない。また、車体が安定しドライバーの安心感が高まるのでステアリング操作の遅れが少なくなり、車体がフワッと浮き上がりにくく沈み込む傾向なので同乗者も安心できる。

どんなFR車にも効果的に作用するとは限らない

このように良いこと尽くしのKPCだが、どんなFR車にも効果的に作用するとは限らない。その理由は前述の通り、わずかな後輪ブレーキに反応して沈み込む車体設計が不可欠だからだ。

マツダではこの先、第7世代のラージ商品群としてFR方式の各モデルを、日本を含めた世界市場に導入すると公表している。「KPCは導入予定の各モデルにも採用する」(マツダの技術担当者)というから楽しみだ。

さらにマツダ渾身のAWD方式である4輪駆動とKPCの相性はどうかと尋ねると、「たとえば前輪にGVCプラスを使い、後輪にはKPCを組み合わせることで運動学に則った走行性能の向上が図れる」(同)という。

GVCプラスとはカーブ進入時にエンジンの力を少しだけ弱めて前輪荷重を増やし、カーブ出口付近では車体外側の前輪に弱いブレーキを掛けて安定した走行性能を目指す技術だ。すでにマツダの各モデルが実装している技術だが、GVCプラスの作動きっかけはドライバーによるステアリング操作であるため、やはりここでも自然な運転感覚が得られると評価が高い。

4代目ND型ロードスターは息長く売れながら着実に進化を続けている(筆者撮影)

2021年11月末現在、約4万1000台のND型ロードスターが日本国内で販売されている。KPCがソフトウェア上での制御であるならば、すでに販売された従来型ND型ロードスターにもアップデートでKPCに対応できるのか……。そのあたりの興味は尽きない。

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しかし、これまでマツダではディーゼルエンジンである「SKYACTIV-D」や、世界初の燃焼方式である「火花点火制御圧縮着火」を用いた「SPCCI」(Spark Controlled Compression Ignition)エンジン「SKYACTIV-X」においても、性能向上を目的としたソフトウェアアップデートを行ってきた。ND型ロードスターオーナー4万1000人のうちの1人としてもKPCのレトロフィットには期待したい。

西村 直人 交通コメンテーター

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にしむら なおと / Naoto Nishimura

1972年1月東京都生まれ。WRカーやF1、さらには2輪界のF1と言われるMotoGPマシンでのサーキット走行をこなしつつ、4&2輪の草レースにも精力的に参戦中。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も積極的に行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)理事。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。(協)日本イラストレーション協会(JILLA)監事。★Facebook「交通コメンテーター西村直人の日々

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