台湾の独立を阻止するには、台湾海峡へのアメリカ海軍のアクセスを阻止せねばならず、そのためには台湾周辺の海域、すなわち東シナ海や南シナ海などの制海権・制空権を掌握しなければならない。この論理(「A2AD=接近阻止・領域拒否」)に基づき、1990年代以降解放軍の海軍・空軍の大規模な増強および東シナ海・南シナ海におけるプレゼンス拡大が推し進められることとなった。そして、それが、両海域、特に尖閣諸島やスプラトリー諸島周辺における緊張状態の慢性化を招くこととなったのである。
一方、中国側の動きに対応する形で日米同盟の見直しが進められ、「台湾問題の平和的解決」が日米同盟の共通戦略目標と定められたことにより、日米同盟は、1990年代後半以降、中国と対峙の度合いを深めていった。
台湾問題は米中・日中関係の古い火薬庫
概していえば、「未完の中国内戦」あるいは中台による「内戦の延長戦」という側面を持つ台湾問題は、米中関係・日中関係が抱える古い火薬庫と呼べるが、中国における軍拡の始動により、その火薬庫につながる導火線に火がつき、それが今日見られる米中関係・日中関係の不安定化を招いているのである。
では、なぜ中国共産党政権は解放軍の大規模な増強を30年以上続けることができたのかといえば、答えは明白であり、それは中国経済が過去30年成長を続けてきたからである。
中国の経済発展に日米欧からの借款、投資、技術支援が大きく貢献してきたことは言を待たない。したがって、先進諸国の企業が軒並み中国に進出し、中国を「世界の工場」に変えたこと、また、その「世界の工場」で生産された商品を日米欧の市場が大量に輸入するようになったことが、大規模な軍拡の継続を可能にしたといえる。換言すれば、日中関係や米中関係には、経済的相互依存の深化が軍事的緊張の増大を招く構造的矛盾を見いだすことができるのである。
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