アカデミー賞受賞は確実「ある日本映画」の凄み 「ドライブ・マイ・カー」複数受賞も夢ではない

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ただし、作品賞の最有力候補は、演技部門では4人がノミネート、そのほかの主要部門でもノミネートされた『パワー・オブ・ザ・ドッグ』だ。

この作品は最有力と言われつつも作品賞を逃した『ROMA/ローマ』と同じNetflix配信作品。劇場ビジネスがコロナで存続の危機にある中、投票者たちはNetflixに作品賞をあげ、本格的に認めてあげてもいいと思うだろうか。それも結果を左右する要素である。つまり、『ドライブ・マイ・カー』の作品賞受賞は、有力とまでは言えないものの、不可能とも言えない。

ライバルは「パワー・オブ・ザ・ドッグ」

上記の要素もあり、監督部門は『パワー・オブ・ザ・ドッグ』のジェーン・カンピオン監督が断然有力。「Netflixに作品賞はあげたくないけれど、監督賞なら」という心理を持つ投票者はいるだろうし、カンピオンは長年尊敬されてきた監督でもある。

また彼女が選ばれれば、2年連続で女性の受賞となる。監督においては特に男社会だっただけに、多様化をうたうアカデミーにとって、それは誇れることだ。ということで、監督部門では、『ドライブ・マイ・カー』は劣勢にある。

脚色部門の最大のライバルもカンピオン。しかし、ここには結構チャンスもある。まず『ドライブ・マイ・カー』はカンヌ映画祭で脚本賞を受賞している。海外の投票者が増えたなかでは、それは強烈な後押しになる。村上春樹の短編に、ほかの小説の要素も加えた上で脚本を完成させたことは投票者の間でも知られており、そのクリエイティブな過程に惹きつけられる人もいるはずだ。

何より、西島秀俊が演じる舞台演出家で役者の主人公の視点から、「創作すること」「演じること」「コミュニケーション」「喪失」といった事柄を、詩的とも瞑想的ともいえる形で語るこの脚本は、同じく作り手である投票者たちの心に響くのではないか。そもそも今作が、アメリカの業界人から支持される理由は、そこにある。

授賞式まで残り5週間。その間に、インディペンデント・スピリット賞、英国アカデミー賞、放送映画批評家協会賞の発表がある。それらも制覇すれば、『ドライブ・マイ・カー』の勢いは加速する。オスカーでは「勢い」も非常に重要な要素だ。ここまでスムーズに運転してきた今作は、最後まで減速せずに走り続けるのか。そうあることをぜひ願いたい。

猿渡 由紀 L.A.在住映画ジャーナリスト

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さるわたり ゆき / Yuki Saruwatari

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『バイラ』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。

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