アカデミー賞受賞は確実「ある日本映画」の凄み 「ドライブ・マイ・カー」複数受賞も夢ではない

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まず、作品部門はどうか。近年、この部門の予想は難しくなってきている。過去5年で、投票者層が大きく変わったからだ。2020年に韓国映画の『パラサイト 半地下の家族』が受賞し、世間を驚かせたのも、まさにそれを反映したものである。

アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミーは、かつて圧倒的に高齢の白人男性が中心の組織だった。だが、2015年と2016年、2年連続で演技部門にノミネートした俳優が20人すべて白人だったことを受け、「#OscarsSoWhite」(白すぎるオスカー)批判が勃発。慌てたアカデミーは、まず投票者を一新するため、有色人種、若者、女性の新会員を積極的に招待することにした。

さらに、会員の水準を下げないために目をつけたのが、海外の映画人だ。彼らを招待することで、今やアカデミーは「アメリカの業界人の団体」ではなく、「世界の映画人の団体」へと変わった。アカデミー自身も、自分たちの定義をそう変更している。

アカデミーの新たな会員のなかには、マーケティング担当者や、スタジオ、配給会社のエグゼクティブなど、制作現場以外で仕事をする人たちもいる。プロデューサー組合、監督組合、映画俳優組合などに所属しない人たちが増えたことから、以前のように組合関係の賞からアカデミー賞の結果を予測することが難しくなっている。

予測を難しくする「作品賞の投票方法」

予測を難しくする原因がもう1つある。作品部門の投票方法だ。作品部門は良いと思う映画をひとつ選ぶのではなく、全部の候補作に順位をつける形で入れる。

開票作業では、それぞれの投票者が1位に入れたものだけに注目する。1位に挙げた人がいちばん少なかった作品は落選し、その映画を1位に挙げた人の票は2位につけたものを1位に繰り上げて、また同じ作業を行う。それを繰り返すことで、最終的に全体の半数の支持を獲得した映画が作品賞におさまる。

この審査方法では、好き嫌いが激しく分かれる作品よりも、幅広い層に気に入られる作品のほうが評価を得やすい。その点では、『ドライブ・マイ・カー』にも希望はある。

筆者のまわりの意見を聞いても、ディカプリオ主演の『ドント・ルック・アップ』は賛否両論あるし、2部構成作品の第1部である『DUNE/デューン 砂の惑星』は違うのではないかという議論もある。そもそもアカデミー賞は、コメディとSFに優しくない。少なくとも、『ドライブ・マイ・カー』はこの2本よりも有利な立場にいる。

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