羽生結弦が緊急会見で怖さや言い訳を口にした訳 成功者だからこそ必要だった「9歳の自分」

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ちなみに羽生選手は今回の会見に限らず、回答の大半で最初と最後に「ありがとうございます」という言葉を添えています。また、海外メディアに対しては「サンキュー」というフレーズを変えていました。羽生選手はつねに「どうやったら自分の思いをしっかり伝えられるか」を考えているようなタイプであり、必然的に言葉数が多くなっていく傾向が見られます。だからこそ、どちらかではなく最初と最後の両方で「ありがとう」というフレーズを添えることで感謝の気持ちを漏れなく伝えられるのでしょう。

自らの名前をあえて連呼した理由

最後の質問となった「2連覇した8年間ずっと“オリンピック王者”を背負い続けてきて、それがなくなった今、率直にどんな感情が湧いているのか」に羽生選手は、「これは泣かせに来るやつですか?」と笑顔を見せました。記者が「感極まった表情を引き出そうとしているのかも」と察したのでしょう。

しかし、羽生選手はすぐに「でも、『とても重かったし、とても重かったからこそ自分が目指しているフィギュアスケートというものと、自分が目指している4回転アクセルというものをつねに探求できたな』と思っています」と冷静に話しはじめました。

その後、オリンピック連覇の過程と今回の結果を振り返りつつ、「でも僕はやっぱりオリンピック王者だし、2連覇した人間だし、それは誇りを持ってこれからも『フィギュアスケートで2連覇した人間』として胸を張って、後ろ指を指されないように、明日の自分が今日を見たときに胸を張っていられるように、これからも過ごしていきたいなと思っています」という力強い言葉で会見を締めくくりました。

何ともカッコイイ締め方ですが、今回の会見で羽生選手が最も多用したフレーズは、「何か」「う~ん」「いろいろ」の3つ。まだ自分の気持ちが整理できず、今できる最大限の言葉を絞り出そうとしながら話し続けていた様子がうかがえます。

さらに「羽生」と自らの名前を何度も呼びながら受け答えしていました。これは羽生選手自身が目標の大会が終わってしまった自分にプライドを持たせ、激励するような意識が頭のどこかにあったのではないでしょうか。だからこそ現段階では、このまま羽生選手が競技から引退するとは考えづらいですし、万が一そうなったとしても新たな目標が見つかったという意味で素晴らしい笑顔を見せてくれるのではないでしょうか。

ただ、記者会見後に行われたTBSのインタビューで安住紳一郎アナから「フィギュアスケート以外のことを考える時間はありますか?」と聞かれた羽生選手は、「ひさしぶりにゲームしました」「チョコレートを食べないとか、(カップラーメンとか)化学的なものをあんまり入れないとか4カ月近くいろいろなものを絶ってここまで来たのでちょっと反動があります」などと笑顔で語っていました。やはり今回の挑戦にはオリンピック連覇に勝るとも劣らない価値があるものだったように感じるのです。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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