──先日、イベルメクチンに関してロイターが不確かな研究を報じました。もともと「イベルメクチンが新型コロナウイルス感染症に効く」という誤情報を信じていた人が、確信を深めたと思います。
そうですね。インターネット上でも、ロイターの記事には多くの人たちが異議を唱えていました。が、一度広まったフェイクニュース・誤情報を訂正するのは難しいので、非常によくないことだと私も思います。イベルメクチンは寄生虫には効果がありますが、新型コロナウイルス感染症に効果があるという質の高い証明はありません。これは明らかな事実なんです。
「信者」になってはいけない
──こうした状況があると、一般の私たちは論文などを読めないし、正しい情報を得るにはどうしたらいいのかと考え込んでしまいますね。
論文というのは、前提条件や背景までわかる専門家にしかきちんと読むことができません。外国の言葉がまったくわからないとき、通訳を雇いますよね。それと同じでいちばんいいのは、信頼できる専門家を見つけておいて「翻訳」された内容を知ることです。
そして人間は間違うことが多々ありますから、誰か一人の意見を信じて、いわゆる「信者」になってしまってはいけませんね。必ず複数の専門家の意見を参考にしましょう。同時に公的機関である厚生労働省、日本ウイルス学会、日本ワクチン学会、日本小児科学会などの見解を確認してください。
──どんな専門家を選んだらいいのでしょうか?
医療のことに関してであれば、少なくとも医師であることは最低条件と考えてみてはどうでしょう。それから、できれば臨床経験がそこそこあり、疫学の基礎を知っていて、学会などのネットワークにしっかりつながっている人がいいと思います。
例えばですが、町のクリニックの医師だと、新型コロナウイルス感染症の初期の状態しか知らないことが多いでしょう。一方、大病院のコロナ病棟にいる医師は中等症から重症しか知らないかもしれません。疫学者やウイルス学者は、疫学やウイルス学には詳しいですが、臨床を知らないことが多々あるでしょう。だからこそ、さまざまな医師や研究者がネットワークを通じて情報を共有し、検討しあう必要があるのです。集合知ですよね。
──反対にどんな専門家は信頼できないでしょうか?
逆に言えば、これだけ専門分野が細分化されているなかで、さまざまな専門家が所属するネットワークに入っていない「一匹オオカミ」的な医師や研究者が言うことはあてになりません。そして科学がエビデンスに至るまでさまざまな角度から議論や検証を積み上げていくことを考えると、常識をひっくり返す研究結果というのが簡単には出てこないことは明らかです。つまり、突飛な主張ばかりをする専門家は信頼できません。
──峰先生は、専門家に頼ることと同時に、自分で勉強することも大事だとされています。
車にたとえるなら、しっかり走るためには、やはり両輪が必要なんです。専門家に頼ればOKかというと、それだけでは危険でしょう。一般的な知識くらいは身につけておいたほうが安心なので、余力があれば、ぜひ少しでも学んでみてください。
1981年、京都府生まれ、神奈川育ち。京都大学薬学部、名古屋大学医学部医学科卒業。東京大学大学院医学系研究科修了。国立国際医療研究センター病院、国立感染症研究所等を経て、現在は米国立研究機関博士研究員。医師(病理専門医)、薬剤師、博士(医学)。専門は、病理学、血液悪性腫瘍、感染症の病理診断、ウイルス学、免疫学。
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