幸せには「推しが大事」予防医学研究者が言う訳 自分より大切に思える存在が重要になっている

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まず、「移動した先で何をすればウェルビーイングになれるのか?」という視点で私たちは2種類の調査をしました。

ひとつは、移動した先で仕事をした場合。もうひとつは、移動した先で自分らしくある、つまり遊んだ場合です。

これは普通に予想すると、どう考えても「移動した先で遊ぶ」ほうがウェルビーイングが高まる、という結果になるのでは?(吉田氏)

仕事のモチベが最も上がる移動距離は?

結果は吉田さんの予想通りです。移動先でウェルビーイングになれたのは、やはり自分らしくいられる好きな時間、遊びの時間を過ごした人のほうでした。移動先で仕事をした人たちは、ウェルビーイングはさほど高まらなかった。

ところが、面白いのはここからです。移動をした先で仕事をした人たちは、ウェルビーイングは高まらなかったのですが、仕事に対する熱量、専門用語でいうところのエンゲージメントに限っては飛躍的に高まったのです。

しかも1カ所ではなく、複数のいろんな場所に移動して、そこで仕事をするほうが仕事のやる気は上がることがわかった。ではどこに移動して仕事をすると、エンゲージメントが最も高まったと思いますか?

答えは近所のカフェ。つまり、在宅や会社よりも近所のカフェで仕事をしたほうが、仕事へのエンゲージメントが高まるという結果が導き出されたのです。

移動が仕事にもたらすポジティブな影響について、もう少しご紹介しましょう。

「座っているときと歩いているときでは、思い浮かぶアイデアはどれくらい違うのか」という移動とアイデアの関係性に迫った研究もあります。もう予想がつくかと思いますが、より多くアイデアが浮かんだのはやはり歩いているとき、さらにいうと、屋内よりも屋外で歩いているときのほうがアイデアは増えた。

つまり、移動をしている最中に、人間の脳はひらめきやすい状態になっているようなのです。

近所のカフェをあちこち巡る。新幹線や飛行機でワーケーションをしに行く。これらはいずれも仕事面における明らかなメリットです。移動距離が長いほど、創造性(クリエイティビティ)が高くなるという見方もできるでしょう。

『むかしむかし あるところにウェルビーイングがありました 日本文化から読み解く幸せのカタチ』(KADOKAWA) 。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

ただ、ではこれがウェルビーイングかというとやはり違います。よく生きるためのウェルビーイングではなく、あくまで、よく仕事をするためのウェルドゥーイングと捉えるほうが正確でしょう。

その前提に立ってもう一度、移動とウェルビーイングの関係性について調べてみたところ、「いろんな場所で遊んでいる人はウェルビーイングが高い」という結果が出ました。

仕事への貢献はいったん脇において、一人の人間として心ゆくまで遊ぶ。それがとても大切であるという事実が研究を通じてあらためてわかったのです。

石川 善樹 予防医学研究者

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いしかわ よしき / Yoshiki Ishikawa

1981年、広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。(株)Campus for H共同創業者。「人がよりよく生きる(Well-being)とは何か」をテーマとして、企業や大学と学際的研究を行う。 専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学など。

Twitter:@ishikun3

個人HP:yoshikiishikawa.com

 

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吉田 尚記 ニッポン放送アナウンサー

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よしだ ひさのり / Hisanori Yoshida

1975年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。『ミュ~コミ+プラス』(月~木曜日24時より放送中)のパーソナリティとして「第49回ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞」を受賞。「マンガ大賞」発起人および選考委員。著書『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(太田出版)が累計13万部(電子書籍を含む)を超えるベストセラーとなり、近著に『没頭力 「なんかつまらない」を解決する技術』(太田出版)がある。マンガ、アニメ、アイドル、落語、デジタルガジェットなど、多彩なジャンルに精通しており、年間100本に及ぶアニメやアイドル、ゲームなどのイベントの司会を務めている。

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