幸せには「推しが大事」予防医学研究者が言う訳 自分より大切に思える存在が重要になっている
移動すると、見える風景は変わります。新しい発見や出会いがあれば、それが短期的なサプライズとなり、ウェルビーイングにも繋がりやすい。
日本の昔話には「もとの地点に戻る」パターンが多く存在します。外に出て、そして再び家に戻ってくる。この構造は旅そのものともいえるでしょう。
短期的なサプライズを求めて外に出て、再びもとのゼロの自分に戻る。
そうすることで自分にまた無限の可能性が開いてくることを、昔の人々も知っていたのでしょう。
昔話がその国の文化や社会の価値観に属して語り継がれていくものであるならば、日本の昔話が「もとの地点に戻る」パターンが多いのはやはり自然なことなのかもしれません。
また、日本を含めた東洋思想では、自然という全体の中に自分がいるという考え方をベースにしてきました。自分という個が極端に突出していくのではなく、大きな自然の一部として自分があって、最後は再びもとの位置へと戻っていく。最初と最後が同じ地点になる物語が多いのも、「もとへ戻ろうとする力」が強く働いているからかもしれません。
よく見知った人ばかりに囲まれ、生まれ育ったコミュニティの中でずっと暮らすことは安心で安全です。けれども、その状態がずっと続くとそれはそれでサプライズが足りない。
安心とサプライズ。本来であれば相反する両方を求める脳の働きに応えるように、その隙間を繋いだのが昔話であり、旅は昔話と同じような効果を持つのではないでしょうか。
移動にもさまざまな形態がある
ここでひとつ研究を紹介させてください。一口に移動といっても、さまざまな形態があります。例えば、近所を散歩することは短距離の移動です。車で数時間かけてちょっと遠出することは中距離の、海外へ旅することは長距離の移動、というように大まかにここではくくっていきましょう。
そうした「移動の多様性」が何をもたらすのかについて、ここでは研究結果を踏まえて見ていきたいと思います。
法政大学准教授の永山晋さんという経営学者がいます。永山さんの専門は「組織のクリエイティビティと価値創造」。創造性が高い人やチームにはどのような特徴があるのか、というテーマについて研究している、その分野の第一人者でもあります。
私と彼はどちらも働き方の未来について考える「ヒューマンファースト研究所」のアドバイザーであると同時に、自由エネルギー原理について毎週のように一緒に勉強している仲間でもあります。その彼と一緒に調べた「移動の多様性とウェルビーイングの関係性」という最近の研究から、とても面白い結果がわかりました。