幸せには「推しが大事」予防医学研究者が言う訳 自分より大切に思える存在が重要になっている

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僕は大半が無宗教の日本人にとって、「推し」はライトな宗教だと思っています。情熱をどれだけ捧げてもOK、向こうから拒否されることもない、変えようと思えば宗派も変えられる。推しがいるから日々のつらさが和らいでいる人、多いですよね。(吉田氏)

 楽しさ、感謝、愛情、喜び。誰かを推しているときに湧き上がる感情は、間違いなく人生をウェルビーイングにしてくれます。

正しさと理屈だけでどこまでも行こうとする人生は、結構困難です。キャリアプランやライフプランを思い描いても、そのとおりに進む人生はありえません。もちろん、プランニングそれ自体は否定しませんが、因果だけで組み立てられた道はやはり細くて心もとない。

だからこそ、自分よりも大事にできる何かが心を下支えしてくれれば、人生を進むエネルギーがもらえるはずです。

「移動」からウェルビーイングが始まる

「人がよく生きるとは何か」をテーマに、私はこれまでウェルビーイング領域でさまざまな企業や大学とプロジェクトを組みながら、「ウェルビーイングはここにありますよ」という道筋をひとつずつ示す活動を行ってきました。

先に述べた「自分より大切な存在を作る」もそのひとつの方策です。

一方で、多様性の時代である今は、大勢の人に対して「これはウェルビーイングなり」と示すことがとても難しくなっています。100人いたら100通りのウェルビーイングの形があるからです。だからといって、「結局、一人ひとり違いますよね」という安易な結論に押し込めることは、何も言っていないのと同じです。

研究を続けていく過程で、私はつねにそんなジレンマを感じていました。

ジレンマから抜け出すきっかけとなったのは、イギリスの脳神経科学者であるフリストン教授の「自由エネルギー原理」との出会いです。自由エネルギー原理とは、「脳の情報処理に関する統一原理」と言われています。

複雑すぎるためここでは簡単に表現しますが、端的に言うと「脳はサプライズを最小化するように働く」ということです。ややこしいのですが、目先のサプライズをあえて求めることで、長い目で見たときのサプライズを最小化しているのです。例えば、居心地がよい場所にとどまるのではなく、見知らぬ土地に出てみることで結果的に「世界に対するサプライズ」を減らしているのです。

壁も天井も真っ白な部屋に閉じ込められると、人間の脳は刺激を求めて幻覚や幻聴が起きるようになるともいいます。それくらい退屈を嫌がる一方で、予測不可能すぎる未来も避けようとする。では両者のちょうどいいバランスはどこにあるのでしょうか。

私が考えるひとつの仮説が「移動の多様性」です。ここでいう多様性とは、さまざまな距離を移動するという意味でもあるし、家の近所であってもいろいろな場所に行ってみるということでもあります。

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