大村崑を「筋トレ沼に落とした」20代青年の正体 「ぼくの師匠は、60歳年下のスーパーマン」
ぼくは、筋肉痛を欲しがる体をなだめるために、週2回ジムに通いつづけました。気がつけば、筋トレを始めてから3年半もの時間がたっていたのです。瑤子さんに誘われたとき、「いやや」と即座に答えたぼくが、そして、「86歳にもなって人に手とり足とり教えてもらえるかい」と腹を立てたぼくが、3カ月たつかたたぬかのうちに、まんまと筋トレにハマってしまいました。もう、ちょっとやそっとのことでは抜け出せません。
ぼくの師匠は、60歳年下の“スーパーマン”
ぼくのトレーナーは岩越亘祐さんという、ぼくより60歳も年下の青年です。身長185センチで、全身の筋肉はすべてこれ以上ないくらい鍛え上げられていて、太ももなど、華奢な女の人のウエストぐらいあります。あたりまえですが、そのほとんどが筋肉、それも岩のように硬い筋肉なのだから、すごい。
ぼくはそんな岩越さんを「スーパーマン」と呼ぶことにしました。わがスーパーマンはやさしくて、生真面目な好青年です。
よく「崑さんのスクワットは美しいですね」などとほめてもくれます。孫みたいな歳のスーパーマンにほめられると、それがまたうれしくて、スクワットがますます好きになります。
ただ、この心やさしいスーパーマンが、ときどき、ぼくを殺そうとしますねん。こっちは40キロのバーベルを背負ったままで、腰を沈めていくんでっせ。1回でもどんだけしんどいか。7回目ともなると、太ももも腹筋もブルブル震えて踏んばれないから、浅く腰を沈めただけで腰を上げていきたくなります。
が、すかさずスーパーマンが「崑さん、もっと深くいきましょう」。その声がやけに明るくて、清々しい。無理や、もうできへんわ……。するとまた、明るく、清々しい声が響きます。「崑さん、大丈夫です、できます」。ぼくを殺す気やん。もう無理やねん。それなのに、結局はスーパーマンの声に励まされて、7回目も、そして8回目も、9回目も、太ももが床と平行になるまで腰を沈めるのです。
10回目で「はい、崑さん、最後です」。そんなん言われても、もう限界です。1回ぐらいおまけしてくれてもええやん。脚も腰も、もう1センチかて動けへん。こう思っていると、ぼくの心の声が聞こえているかのように、スーパーマンは「大丈夫です、崑さん、できます」の確信に満ちた明るい声を出します。ホンマに殺されるわと思いながらも、その気になってしまうぼく。最後の1回のために、力をふりしぼり、腰を下ろしていくのです。ぼくは渾身の力で10回目をやりおえます。
どうやスーパーマン、おれ、やるやろ。そのとき、「崑さん、やりました! すごいです」。その声がぼくの耳にそれまで以上に明るく、清々しく響くわけです。
スーパーマンはつねに、バーベルを担いでいるぼくのうしろにピタッとくっついてくれています。岩のようなカチカチの筋肉をした、見上げるばかりの長身のスーパーマンが、いざというときのためにすぐうしろにいるから、ぼくは殺されそうなハードなスクワットでも、安心して自分の動きに全神経を集中することができます。
60歳年下のイケメンと週2回会えることは、筋トレそのものと同じくらい楽しいですな。
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