大村崑を「筋トレ沼に落とした」20代青年の正体 「ぼくの師匠は、60歳年下のスーパーマン」
ザ・おじいちゃんな毎日をすごしていたある日、瑤子さん(僕の奥さん)が「一緒にライザップへ行かへん?」と言いだしました。ぼくの体形や歩き方を見かねたのでしょう。
ぼくは即座に、「いやや」と答えました。
瑤子さんが言う「ライザップ」って、テレビでコマーシャルやっているあれやな。たしかトレーナーが一対一で、運動のやり方を教えてくれるやつや。
ぼくらは先輩の俳優の芸をじーっと観察して、まねて、盗んで、自分のものにしてきました。そやのに86歳にもなって、なんでトレーナーに教えられなならんねん。人から教えられることからして、気に食わない。
西郷輝彦「先輩のくしゃみ、売ってください」
そういえば、舞台で一緒になった西郷輝彦さんから「先輩、くしゃみの仕方を教えてください」と頼まれたことがあります。台本には「ハクション!」とあるだけで、どうやっていいのかわからないと言うのです。
くしゃみを教えるのは、これはむずかしい。鼻を揺すって、舌を持ち上げて、お腹に力を入れて……と説明したけれど、うまく伝わりません。
「くしゃみにもいろんな種類があるけど、どれが希望ですか? ハ、ハ、ハクション、は乾いたくしゃみ。へ、へ、へ、ヘクシ、ショョンは汁気の多いくしゃみで……」と実演してみても、西郷さんは首をひねるばかり。しまいには「先輩のくしゃみ、売ってください」と言いだす始末です。売れませんがな、そんなもん。
なんの話でしたっけ? そうそう、ライザップでした。
くしゃみの仕方ひとつとっても、ぼくは人がくしゃみをするのを見てまねて、盗んで、ものにしてきたという自負があります。しかも、ぼくは役者です。覚えはめっぽう早い。いっぺん見せてもらえば、すぐにできてしまう。
それやのに筋トレかなんか知らんけど、この歳になってなんで人に手とり足とり教わらなアカンねん。
ところが、瑤子さんが「近所やし、きっと楽しいと思うよ、体も引きしまるやろうし」と食い下がります。仕方なく、行くだけ行って、入会は断固断るつもりでした。
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