「親は8年前くらいに日本に戻ってきたんですが、それまではずっと各国を転々としていて。私が欧州にいたときは、兄と私と父と母が、4カ所バラバラに住んでいた時期もあったりして、家族が何カ国にもまたがっているのが当たり前でした。だから『家族の絆』とか、たぶんないです。
いっしょに暮らしていたときも父はずっと仕事中心で、家族はみんなそれに振り回される感じ。母はいちおう専業主婦でしたが、まるで父の秘書のように、書類の作成から何から何まで全部やっていて、本当にお給料もらっていいんじゃないかというくらい支えていました。母はめっちゃ明るい人で、前向きに楽しんでいたからよかったんですけれど」
長い間「実家」と感じられる場所もなく、家族とともに過ごした思い出も少ない百合さんは、ずっと「家族って何?」という問いを抱えてきたのだと話します。
華やかに見えるものの水面下にある多大なる奮闘
さらにもう1つ、帰国後の百合さんに強い違和感をもたらしたのが、冒頭でもふれた、日本人が抱く「帰国子女」のイメージでした。海外で暮らしていたと話すと、必ず返ってくるのが「カッコイイね」「英語(外国語)ペラペラなんでしょ?」「恵まれてるね」といった言葉。「違うんだけど」と感じるものの、ひと言ではとても説明できません。
「帰国子女といっても、百人百通り。大きく分けると『現地校に通う人』と『インターナショナルスクールに通う人』と『日本人学校に通う人』の3つなんですが、いちばん大変なのが現地校に行った人です。現地の言葉に加え、第2外国語と英語、日本語という4つの言語をマスターするため、死ぬほどの思いをして頑張ってきた人たち。インターナショナルスクールの人も、英語、日本語、第2外国語という3言語をやってきて、英語がペラペラ。たぶんみんなが思い描く『帰国子女』って、そういうイメージなんですけれど。
でも、私はずっと日本の教育を受けてきたので英語もそこそこだし、現地の言葉もそこそこ。なのに『キラキラだね』とか『恵まれてたね』と言われたり、自慢しているようにとられていることもあって……」
百合さんが「まさしくそれだ」と感じたのは、帰国子女仲間の友人が口にした「湖の上の白鳥みたい」という表現でした。
「湖の上の白鳥って、きれいに、華やかに見えるんだけれど、水面下では必死で足を動かして水をかいている。帰国子女ってもう、まさしくそれです。誰にも見えない、ものすごい苦労があったりする。
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