被災鉄道、なぜ山口県は早期復旧できたのか ローカル線は不通が長期化すると苦しい

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山陰本線、山口線の運転再開を知らせる駅の掲示

すなわち7月に被災し、11月からすぐ全力で復旧工事に当たろうとすると時間的余裕はない。山口県とJR西日本が互いに連絡を取りあいつつ、方針決定、補正予算編成、協議締結、新橋梁の設計と工事発注などを極めてスムーズに行わないと、鉄道の復旧自体が大幅に遅れてしまう可能性があったのだ。

「鉄道は復旧させる。断じて廃線にはしない」「JR西日本には過度の負担は負わせない」という「トップの決断」と「組織としての方針決定」がいかに重要であったか。山口県知事とJR西日本広島支社長の、トップ同士の密な連携と意志統一もまた、大きな推進力となったそうだ。

ちなみに、山口県とJR西日本の復旧費用の負担額は以下の通りだ。

美祢線は、山口県4億9973万3000円:JR西日本1億6700万円

山口線は、山口県15億3400万円:JR西日本3億7900万円

山陰本線は、山口県3億8100万円:JR西日本4600万円

美祢線・山口線・山陰本線の利用促進に取り組む

美祢線の被災時に山口県とJR西日本との間で交わされた利用促進に取り組む約束は、8月の運転再開直後の9月中旬に、私が美祢線・山口線を訪れた際には、順調に果たされているように思えた。

山口線沿線最大の観光地である津和野は島根県に属するが、商店や飲食店などには島根県・山口県・JR西日本の連名で運転再開を祝うポスターが貼られ、「沸活・山口線」とのキャッチフレーズが町じゅう至るところにあふれていた。

運転再開に当たっては、美祢線、山口線、山陰本線の旅を勧めるキャンペーンが展開され、JR西日本は乗り放題の割引きっぷの発売、山口・島根県は各種イベントの開催、などといった取り組みを実施。地元住民がこれを盛り上げるという連携が行われている。SL列車運休による観光客減少、地域の経済力低下はやはり否めず、鉄道あっての観光地という姿勢が定着しているようで喜ばしい。

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美祢線の列車内に置かれた「利用証明書」。活性化策の一つとして行われている。

美祢線はもともと石炭や石灰石の輸送で栄えた産業路線だけに、山口線ほどの華やかさはない。だが、沿線の美祢市、長門市、山陽小野田市が主体となって、運転再開を前にして「JR美祢線利用促進協議会」を結成。専用サイトも開設し、活性化のため盛んな議論、活動が行われている。

列車内には沿線の観光施設が割引となる(例えば、秋芳洞の入場料が1200円から900円になる)「美祢線利用証明書」が置かれるなど、誘客への積極的な姿勢がうかがえた。長門市出身の詩人・金子みすゞの詩やイラストを描くなどした、計3両のラッピング車両も走りはじめている。乗車券や定期券購入の際に、運賃の一部を助成する制度も創設された。

やはり、鉄道事業者と地域との協力なくして、ローカル線の永続と活性化はありえないと痛感している。 

土屋 武之 鉄道ジャーナリスト

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つちや たけゆき / Takeyuki Tsuchiya

1965年生まれ。『鉄道ジャーナル』のルポを毎号担当。震災被害を受けた鉄道の取材も精力的に行う。著書に『鉄道の未来予想図』『きっぷのルール ハンドブック』など。

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