「障害者雇用」の兄を自死で亡くした弟が語ること 兄は統合失調症、弟は双極性障害に苦しむ

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会社にはだましだまし出勤していたものの、症状は悪化する一方。30代前半で退職を決め、障害者手帳を取得した。その後、1年間のひきこもりを経て障害者雇用で働き始めた。当初は「せめて大企業で働きたい」と有名企業での就労にこだわった。ただいざ働いてみると、業務内容はいわゆる単純作業で、賃金も最低水準。かえってストレスがたまる中、考え方を切り替えざるをえなかったという。

「まずはプライドを捨てる。大切なのはメンタルの波をつくらないこと。その範囲内で少しでもやりがいを感じられる仕事を探しました」とヨウヘイさん。現在は週3日ほど塾講師をしている。年収は約60万円。障害年金と合わせると130万円ほどだ。

取材で会ったヨウヘイさんは落ち着いていて、話も理路整然としていた。双極性障害とわかってから10年。この間、自己肯定感にもかかわる価値観を根底からつくり替える作業は決して容易ではなかったはずだ。余裕のある物腰からは、多くのことと折り合いを付けながらも、服薬を欠かさず、病気と付き合っていることがわかった。

精神疾患がわかれば収入は激減する

話が少しずれるが、私が新聞社に勤めていたころ、在職中に精神疾患と診断された社員は、勤務時間が比較的安定している一部の内勤部署に異動になることが多かった。ヨウヘイさんの場合も同様の人事だったのではないか。当事者らの心情は別にして、少なくともそれまでの基本給や福利厚生は保障された。

余裕のある時代だったと思う。ひるがえって現在。企業は過去最高の内部留保を蓄積する一方で、こうした“受け皿”的な部署は次第に見かけなくなった。

障害者雇用促進法は改正を重ねているが、依然として障害者雇用の賃金水準は低い。私が取材する限り、精神疾患がわかれば解雇もしくは退職を余儀なくされ、障害者枠で働いても収入は激減するケースが多い。「ともに生きる社会」といった美辞麗句を掲げながら、病気がわかれば即貧困に陥りかねないのが現実である。

一方でヨウヘイさんの兄の人生はどのようなものだったのか。兄は住宅メーカーの子会社に就職し、工事の現場監督を任されていた。家族が異変に気が付いたのは、兄が20代後半のころ。突然、「誰かに追われている」「親族に迷惑をかけるかもしれない」と言い出したのだという。

兄の話は何もかもつじつまが合わなかった。医療機関を受診したところ、統合失調症と診断された。ヨウヘイさんがうつ病と診断された直後のことだった。

その後、兄は結婚したものの、病状が悪化。会社では畑違いの現場作業を割り振られるようになった。事実上の降格である。結局離婚と退職を余儀なくされ、タクシー運転手に転職したが、体調が安定せず、障害者手帳を取得。障害者枠で食品関係の会社に就職した。

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