「監視国家中国」を笑えない日本の「硬直社会」 「根回し」と「一国二制度」から考える日中の本質

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五百旗頭:私がコロナ禍で非常に残念だったことの一つが、結局、リモート文化が日本では根づいていかないのでは、ということです。根回しを重視する日本人には向かないのかもしれませんが、例の飲みニケーションを含めて、もとに戻ろうとする力がとても強いと感じます。

岡本:たしかに、もとに戻ろうとする力は強いですね。それも硬直性の一面かもしれません。

五百旗頭:そのへんは、実は、若い世代の新しい感覚に期待していたんです。若い世代で一番先鋭的で元気な人たちは、スタートアップを行うような人たちだと思っています。ただ、新しい産業が興る条件というのは、産業革命の頃と変わっていなくて、密接なコミュニケーションの中で相互連鎖が起きて、新しい発想が生まれてくるということです。スタートアップを行うような人たちは、みなテクノロジーやAIに詳しいのですが、コミュニケーションとしては3密のコミュニケーションを一番求めている人たちなんですね。

一番頼りになる尖兵が、実は最初に裏切っていて、という感覚でしょうか。やはり原状復帰のバネに負けてしまっているな、と感じます。日本だけではなく、ここボストンでは、オミクロンが出る前のコロナ明けの雰囲気というのは、一緒に話せるのがうれしいというので、レストランやその周辺の広場を歩くと、その人たちのワアッという話し声がうねりのようになって広場全体を圧している感じです。その点、中国の若者のほうがずっとリモート文化やテクノロジーの進化を受け入れている気がしますね

岡本:リモート文化は、彼らに合っている感じです。自由でお互いの間隔が「遠い」からでしょうか。でも、本来的には密な人たちでもあるので、なかなか判断がつきづらいですね。ただ、われわれよりは格段にリモート文化に適している人たちであることは間違いないと思います。

中国の「一国二制度」が意味すること

五百旗頭:日本だと一緒に飲んで、肝胆相照らして、そこで本音で大丈夫となったりしますが、中国についてよく耳にするのは、公の会議では公式論で平行線に終わっても、そのあとの飲み会は腹を割って話せてすごく楽しいと。そしてそのことが翌朝の公の会議には影響しないというんですね。そのオン・オフがパラレルのまま続くという。だから、彼らは根回し文化ではないということですね。

岡本:決定の「根回し」ではないんですよね。ただ事実上、公式の場とそうでない場との使い分けの文化は持っています。「根回し」のように一元化しないところが、日本とのちがいでしょうか。だから一国二制度なんですよね。飲んで楽しくやっているというのが二制度で、公に決まらないというのは一国ですね。

五百旗頭:それは香港の扱いも意識したうえでの比喩でしょうか。

岡本:比喩的な意味です。ですから、台湾の存在もそうですし、香港もそうですし。たぶん、いろんな地方政府・民間社会とかも全部そうではないでしょうか。

五百旗頭:そうか、平行線で決まらないほうが一国ということですね。

岡本:そうですね。だから逆に、一国というのはスローガンみたいなもので、公的にはこれは絶対譲らないと言ってはいるんですけれども、実際には二制度ですから、何でもあり、なんですよね。

ただその振幅・範囲は、時と場合によって違ってくる。香港の現状はまさに目前で、遷移している感じですし、外からの影響がその大きな変数になってきます。このあたりを見きわめるのが今後重要になろうかと思います。

五百旗頭:なるほど、いろいろ勉強になりました。

岡本:こちらこそ、ありがとうございました。

岡本 隆司 京都府立大学文学部教授

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おかもと・たかし / Takashi Okamoto

1965年生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。博士(文学)。『属国と自主のあいだ』『明代とは何か』『近代中国と海関』(共に名古屋大学出版会)、『世界史とつなげて学ぶ中国全史』『中国史とつなげて学ぶ日本全史』(共に東洋経済新報社)など著書多数。

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五百旗頭 薫 東京大学大学院法学政治学研究科教授

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いおきべ かおる / Kaoru Iokibe

1974年生まれ。1996年東京大学法学部卒業。博士(法学)。主な著書に『大隈重信と政党政治―複数政党制の起源 明治十四年-大正三年』(東京大学出版会)、『条約改正史―法権回復への展望とナショナリズム』(有斐閣)、『〈嘘〉の政治史―生真面目な社会の不真面目な政治』(中公選書)がある。

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