「監視国家中国」を笑えない日本の「硬直社会」 「根回し」と「一国二制度」から考える日中の本質

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五百旗頭:今のアメリカの対中戦略というのは、軍事的なエスカレーションは行わないということでほぼコンセンサスができている。また体制転換をやろうとしてもうまくいかないし、反発を買うだけなので、そうではなくて中国の体制の弱い部分を刺激して、少しずつ追い込んでいく戦略です。

岡本:弱い部分というと、台湾とかでしょうか。

五百旗頭:そういう具体的な問題もありますが、より抽象的には中国内部の社会構造の弱さですね。今、どこが弱い関節なのかを一生懸命探しているところだと思います。でも当局と人々の間にウィン・ウィンの関係があるならば、中国は意外に耐性があるということかもしれません。

柔構造の中国、硬直している日本

岡本:中国の社会構造は柔構造というか、非常に流動的な部分があるので、日本みたいに脊髄反射的、条件反射的にというようなことにはならないだろうなとは思います。

やはり中国では日本や欧米に比べると、民間と政権、社会と国家の隔たりが大きくて、その間隔をどうみるかが問題でしょうか。隔たりを弱さとみるのか、しなやかさとみるのか。きわめて「硬い」体制の下に存在する不即不離な深層社会が、可動的可変的、流動的で柔軟な「ゲル」状の構造になっているといいましょうか。「ゲル」なので軟弱ではありますが、衝撃も吸収できる。

逆に日本に欠如しているのが、この「ゲル」の部分で、上下一体、硬くまとまっているのはよいのですが、硬いので逆に弱い。刺激・衝撃がそのまま伝わって、すぐ反応・反射してしまう、というイメージです。

五百旗頭:なるほど。日本は脊髄反射なんですね。

岡本:日本が硬直しているのは、古代からですので。中国のものをコピーしなければという脅迫観念で律令を取り入れてみましたけど、うまくはいかずに、その後、温暖化に転じたことで中国のプレッシャーも緩み、周辺国家・社会がみな元気になった。そこで自分たちの社会に適合した独自性を出すようになり、日本は武家政治になっていった。しかし、何百年か経つと、また中国からのプレッシャーが来る。その繰り返しですよね。プレッシャーが来ると硬直化した反応になっていくみたいな感じで。

前回、議論をしましたが、西洋のほうは準備期間があったので、割とうまくいきました。しかし、20世紀になってアメリカのプレッシャーになると、またアレルギーを起こしてといった感じで、なんかしっくりこなくなっている。

五百旗頭:脊髄反射のお話は納得です。日本史を見ていると、世界情勢への反応はそれなりに合理的です。だから世界を動かした複数の要因がどうメカニックに連関しているかが、日本の中から発見できる気がする。たとえていえば、気の遠くなるような遠い理想ですが、日本を深掘りしていくと、いつの間にか反対側のアンデスの頂上に出て、そこから一つの世界が見える感じでしょうか。ただそれは世界の一つの見え方にすぎない。岡本先生のようにユーラシアを横断・踏破して、返す刀でまた日本史に来襲してこられるような研究へのあこがれがあります。

岡本:とんでもございません。いつも粗い観察と論述でお恥ずかしいかぎりです。もう老耄なので、いまさら我流を変えられません(笑)。今回もそれで最後までいかせていただきますと、結局、日本の本質というのは、根回し文化という言葉に象徴されるように、みんな丸く収めて波風が立たないようにする社会なんですが、それは本当の意味で自由がない、硬直した社会なんです。西洋も似たようなところがあって、だから西洋のものはうまくマッチする。

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