台湾の超天才が「視点を偏らせない」思考を貫く訳 問題解決における最初のプロセスは「傾聴」である

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この2つは同時に行わなければなりません。先に拒否だけしておいて2週間もたってから、「もっとよい方法を思いつきましたよ」と告げることはダメなのです。私が拒否するときは同時に、相手に対して、こうするのはどうでしょう? ああするのはどうでしょう? と問いかけるようにしています。複数の視点を包摂(インクルージョン)することで、一貫した価値が生まれるのです。

たくさんの視点を自分の中に蓄積する

私がトランスジェンダーだという話を議論したがる人も多いのですが、これも多重視点で見ることができるでしょう。私はちょうど抽象画を観るときのような、鑑賞者としての視点を選択しているのです。その絵をちょっと見ただけでは、画家が何を伝えたいのかわからない、あるいは色が3つ並んでいるだけの絵のどこによさがあるのかわからないと感じるかもしれません。

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ですが、無理やり理解する必要はありません。どんな感じ方をしようが、どれも視点の一つですから。鑑賞者としての態度を保ってさえいれば、その画家が何を伝えたいのか、いつかわかる日が来るでしょう。

もちろん現代社会の中では、自分にラベルが何枚も貼られていると感じることもあるでしょうが、実はその体験によって、サルトルの言う「地獄とは他人のことだ」(注)を自分が自覚できていることに気づけるのです。他人への不当なラベル貼りから脱却する唯一の方法は、構造的な方法によって他人を理解することですが、そうするためには多重視点を取り入れて、絶えず修正を重ねていく必要があります。

しかも、別の人が将来こうした状況に置かれる確率を下げなければ、他人にラベルを貼りたがる思考から抜け出したとはえません。これはたくさんの視点が自分の中に蓄積されてゆくプロセスですが、1本の正確な水平線に向かって走っていれば、いつか地平線と水平線がなり合う日が来るでしょう。その光景を幻のままで終わらせたくないなら、多重視点を増やし続けながら、繰り返し他者と共創していくことが大切です。

(注)哲学者サルトルの戯曲『出口なし』の一節。他人からの完全な理解は難しい一方、そうした他人なしでは人は生きていけない。他人とせめぎ合いながらも共生して生きていかなければいけない状況を、サルトルは「地獄」と表現している。
オードリー・タン 元台湾デジタル担当政務委員

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Audrey Tang

元台湾デジタル担当政務委員(閣僚)。台湾初のデジタル大臣、台湾の無任所大使である。1981年、台湾台北市生まれ。幼少時から独学でプログラミングを学習。14歳で中学校を自主退学、プログラマーとしてスタートアップ企業数社を設立。19歳のとき、シリコンバレーでソフトウエア会社を起業する。2005年、プログラミング言語Perl6開発への貢献で世界から注目を浴びる。トランスジェンダーであることを公表。2014年、米アップルでデジタル顧問に就任、Siriなどの人工知能プロジェクトに加わる。その後、ビジネスの世界から引退。蔡英文政権において、35歳の史上最年少で行政院(内閣)に入閣、デジタル政務委員に登用され、部門を超えて行政や政治のデジタル化を主導する役割を担った。2019年、アメリカの外交専門誌『フォーリン・ポリシー』のグローバル思想家100人に選出。台湾の新型コロナウイルス対応では、マスク在庫管理システムを構築、感染拡大防止に大きく寄与した。

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