台湾の超天才が「視点を偏らせない」思考を貫く訳 問題解決における最初のプロセスは「傾聴」である

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このように、自分の中にさまざまな視点を積極的に取り込むと、ものごとをより深く理解できるようになり、当然ながら知識も増えます。つまり、広い知識を備えた人しか「多重視点というエンパシー(知性や経験に基づいた理解)」を実践できないのではなく、「多重視点というエンパシー」を実践すればその分だけ知識が増えるのです。

これは練習すればできるようになります。ちなみに、エンパシーを表す「同理(トンリー)」の「理」という字は「情」ではなく「知識」を意味しているのです。

1つの視点に偏ると、ゼロサム思考しか生まれない

例えば、最近私が読んでいる『The Routledge Handbook of Epistemic Injustice』(未邦訳)は認知の過程を「不当」という角度から研究したものです。この観点には、いわゆる社会の主流の視点ではなく僻地の人や業・漁業従事の視点に立つことによって、「勉強以外のものに価値はない」という固定観念を修正できるというメリットがあります。

つまり、社会の主流とは逆の視点が、いわゆる主流の価値を修復するきっかけとなるのです。その視点はゆっくりと、でも確実に広まってゆくものです。やがて、たくさん勉強したから自分はすごいのだといったうぬぼれは手放せるようになります。すべての声が智慧なのです。私たちが言論の自由を欲するのは、多様な見解や複数の視点を求めているからなのです。

何かを見たり考えたりするとき、たった1つの視点や文脈に沿って議論する方法しかないのではあまりに窮屈です。そこからはゼロサム(片方が得をするともう片方が損をする状況)の結論しか生まれないでしょう。もっと多くの視点を取り入れて考えれば違った見方ができるようになります。結論を1つしか持てないのは別の視点が欠けているからではないか、という疑問も解決できるでしょう。

多重視点で考えていて、双方の意見を両立させづらくなった場合はどうしたらいいでしょうか。当然ながら私はすぐに拒否せずに、ほかにもっといいやり方はないでしょうかと問いかけます。この方法は、人から批判を受けたり教えを聴いたりするときの態度と同じです。自分に足りないところがあることを認めたうえで「你行你来(自分もできるという人は、どうぞやってください)」と提案するのです。

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