映画「999」がドルビーシネマ版で蘇った深い理由 海外展開にはアーカイブのリマスター化が不可欠

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同社企画部の木下陽介プロデューサーは、この4Kリマスター化プロジェクトに興味を持ち、「どうせやるならアーカイブだけでなく、ビジネスとしてもしっかりとやりたい。『銀河鉄道999』ならば4K化だけでなく、HDR化し、ドルビーシネマ版までもっていけば、新たな展開を作り出せるし、これが試金石になる」という思いから、ドルビーシネマ版のイベント上映にかじを切った。

舞台あいさつに登壇したりんたろう監督(左) (筆者撮影)

ドルビーシネマ版の作業を行ったのは、『機動戦士ガンダム』『AKIRA』など、数多くの作品の4Kリマスター版を手がけてきたポストプロダクション会社のキューテック。今回の修復にあたり、マスターポジを5Kスキャンした後、高解像度の4KHDRマスターを作成。35㎜フィルムのポテンシャルを最大限に引き出した。その結果、これまで暗くて判別しにくかった背景などの描き込みなども、しっかりとした奥行きとともに、ハッキリと確認できるようになった。「今から10年ほど前にBlu-rayを出した時のHDリマスタリングの際には、ハッキリした色合いになっていたが、今はセル画、フィルム作品が持つ色や質感を活かす方向になっている」(近藤修治映像管理室長)

もともと『銀河鉄道999』の公開当時の音声素材はモノラルMIXしか存在しなかったが、今回は、2019年のブルーレイ化の際に作成した疑似の5.1ch音声素材をもとに、立体音響技術「ドルビーアトモス」に拡張した。

なお、5月11日には『銀河鉄道999』『さよなら銀河鉄道999 ~アンドロメダ終着駅~』ともに4K ULTRA HD Blu-rayで販売予定となっているが、こちらには、家庭向けの音響システムDolby Atmos Homeも収録。「こちらのUHD Blu-ray版は家庭で鑑賞するのに最適なバランスで調整しています。劇場と比べてまた違った印象があるので、よかったら両方見比べてほしい」(木下プロデューサー)。

デジタル化の費用とマネタイズが課題

今回のドルビーシネマ版の出来は、関係者をも唸らせるものだった。『銀河鉄道999』ドルビーシネマ版の公開初日(1月14日)の舞台あいさつで、本作を手がけたりんたろう監督は、「よみがえったという感じですね」と、しみじみと感激の言葉を寄せていた。

東映アニメーションとしては、過去の財産であるアーカイブの大切さをあらためて感じているという。現在保管されているネガフィルムやテープ素材などの経年劣化は避けられず、最悪の場合、使用できなくなる可能性がある。そのため、それらのデジタル化による保管、修復作業を進めている。

東映アニメーションの木下陽介プロデューサー(右)と近藤修治映像管理室長(左) (編集部撮影)

もちろん短期的な視点でのマネタイズも必要ではあるが、日本のアニメーション文化の財産を次世代に託すという長期的な視点も必要とされる。東映アニメーションでは、そのための施策として2021年4月から、製作部の中にあったアーカイブのセクションが、営業企画部に編入されることになった。これによって文化事業とビジネスが両輪で運用されることになる。

「弊社だけでなく映像作品のコンテンツホルダーは、さまざまな苦労を重ねながら、、アーカイブ事業に取り組んでいる。そういう意味で弊社としてもアーカイブに対する方向性を出していく必要がありました。特に今は配信で過去作の需要が高まっておりますので、そのニーズに対して高品質の素材を用意する事で、販売につなげていきたい」(近藤修治映像管理室長)

東映アニメーションには、まだまだ4K化が熱望される名作が数多く存在する。それゆえに同社が今後、どのような展開をするのか。注目である。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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