選挙に連敗した台湾の国民党に未来はあるのか 国会議員補選に負け、リコールも拒否され…

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まず、台中の補欠選挙から見ていきたい。

2020年、台中市第2選挙区で立法委員となった陳柏惟氏は、市民団体によるリコール要求が本格化した2021年6月から投票まで、和解済みの事件や生まれ育った環境に至るまで、人格を含む厳しい追及を受けた。彼が所属する台湾基進党は、もともと台湾独立に代表される台湾本位の政治を主張する政党だ。陳氏陣営は1つ1つ丁寧に回答していたが、有権者に積極的な投票を呼びかけるべきなのか、あるいは消極的に対処するべきなのか迷っているうちに選挙戦に入り、破れたのだった。

しかし、陳氏は結果を真摯に受け止めると同時に、有権者やメディアには、同じような基準で、補欠選挙の候補者らをチェックしてほしいと希望していた。多数の地域で選挙戦が繰り広げられる地方選などの大型選挙では、メディアはカバーする範囲が広すぎて、各選挙区で詳細な取材活動はなかなかできない。しかし、台中の補欠選挙と林氏のリコール投票の2つとなれば話は違ってくる。今回敗れた国民党の顔氏は、台中に強固な地盤を築いたマフィア的な存在である顔清標氏の長男だ。メディアは選挙戦の序盤から、顔氏一族の数々の疑惑や問題を、連日取り上げるようになった。

国民党候補に相次いだスキャンダル

例えば、台中市が児童遊戯施設を建設するために保有していた土地を顔氏一族に貸与したところ、当初申請した大きさをはるかに上回る建築物を建てて、ゲストハウスとして使用していたことが暴露された。メディアをはじめとする各界から違法性について糾弾されたにもかかわらず、違法建築の撤去は遅々として進まず、人々が納得できる誠意ある対応はなかった。あろうことか、「法に則り処理する」などの無機質な回答を繰り返す顔氏に、人々はさらに憤ったのは言うまでもない。

他にも台中港での倉庫事業の一族への利益誘導疑惑、顔氏一族と関係が深い人物が、顔氏が貸し出した建物で違法賭博を行っていたり、台中メトロの運行予定路線が一族が所有する土地周辺を通るように変更されていたなど、次々に噴出するスキャンダルに整理が追いつかない状況となっていた。これまで噂程度に思われていた顔氏一族の政財界での影響力と金銭にまつわる不明瞭なつながりが、白日の下にさらされたのだった。

さらに人々の追及は、候補者の顔氏だけとどままらなかった。監督すべき台中市とそのトップである市長の盧秀燕氏にまで波及したのだ。盧氏は2018年の統一地方選で、当時民進党籍で現職の林佳龍氏を、21万票の大差をつけて破った国民党内で中堅ホープの一人。次回選挙でも再選する可能性が高かった。

普段はテキパキ仕事をこなし、家庭も大事にする女性政治家というイメージが強かった。ところが、顔氏の一連のスキャンダルでは自ら進んで対応する姿勢が見られず、よりによって子どものための土地が不正に利用されていたことがわかると、「子どもにやさしい政治家」というイメージは完全に地に落ちてしまった。

さらに、スキャンダルの火の粉を避けようとするあまり口数が減ったことで、問題に向き合おうとせず逃げているという悪印象も与えてしまった。一部では、「台中の真の主は顔氏一族で、盧市長ではなく盧秘書(顔家の秘書)だ」とまで揶揄する声も聞かれる。今では、盧氏の再選に黄色信号が灯った。

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