EC全体の市場は2013年には11.2兆円(経済産業省調べ)に達し、消費全体の約3~4%を占めるまでになりました。過去のこの連載の中でも、下北沢にある書店「B&B」がアマゾンにはできないことを実店舗でやることで差別化を図るなど、「WEB vs. 実店舗」のケースについて議論しました。しかし、このふたつは本来、対立構造で考えるべき話ではありません。
お客様と触れ合う「顧客時間」という考え方
「お客様は、購入するまでに比較検討されたり、迷われたりして時間を使っています。私たちは購入だけでなく、購入に至るまでの時間、さらに購入後の商品を使っていただいている時間を『顧客時間』と呼んでいます。この顧客時間がWEBやデジタルできちんと分析できれば、お店や一緒に働くスタッフの役に立つ情報をもっと取れるし、お客様のためになるのです」
奥谷さんは、WEB事業は単純に売り上げを得るということよりも、この「顧客時間」の共有と分析を通して、店舗や商品も含めた無印良品のブランド全体にとって価値があると考えています。
無印良品は1980年に誕生してから、無駄をそぎ落としたシンプルなデザインと哲学をベースに、実店舗を通して拡大してきたコンセプトブランドです。すでにそこにはブランドのファンがいて、購買行動を通してブランドの維持・発展に貢献してきてくれたお客様がいます。そのブランド価値とお客様のロイヤルティを考えると、WEB店舗はそれを売り上げにつなげる効率的なツールです。
しかし、奥谷さんが話す「顧客時間」という考え方は短絡的に売り上げを上げようとするアクションとは違うものです。
「顧客時間を知るためにお客様とコミュニケーションして、お客様の消費の時間を可視化し、徹底的にこちらからお客様に寄り添います。小売業はこれからの時代、最高なものか、最安のものか、もしくは最も愛されるか、このどれかがないと生き残っていけません。愛されるブランドになるためのツールとして、店舗は徹底してアナログを極め、WEBはデジタルを極めるべきです」と奥谷さんは言います。
店舗もWEBも売り上げがひとつの目的であることは間違いありません。しかし、その目的を、愛されるブランド作りに生かすとなった場合、店舗で売れる、WEBで売れるということを超えて、両者がそれぞれの役割を担い、お客様に愛されるコミュニケーションをしなければならないのです。
では、WEBがデジタルを極めるとは何でしょうか?
ここで、お客様が単に購入する時間だけでなく、ブランドと触れ合っている「顧客時間」をどう作り出すか、そしてどう分析するかが重要になってきます。
WEBで商品を見て、そのまま購入するお客様は全体の一部です。多くのお客様は、店舗で迷った商品をWEBでアクセスして購入したり、逆にWEBで見て気になるものを店舗で確認したりしながら、購入に至っています。このようにお客様がWEBと店舗の両方を行き来するのが、O2O(Online to OfflineもしくはOffline to Online)のベースにあります。そのO2Oの流れの中で、お客様がどのようにブランドと触れ合っているのか、分析することができるのがWEBの強みです。
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