英国3回目接種「看護師不足の結果」起こったこと 24時間開設のうえ医療従事者以外も駆り出され

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とはいえ、期限まですでに2週間半しか残されていない。慌てたのがワクチン接種に関わっている部署の管理職だ。上司から「各会場でキャパシティーを大きくし、ワクチン接種の回転数を上げるように」との指示を受けた彼らは、大量のワクチンを供給するための予定を組み、接種予約を目一杯詰め込んだ。スタッフには、もはや日本の元日にあたるクリスマスや翌日の祝日などは関係なくなった。

大規模ワクチン接種会場のスタッフの大多数は登録制のバイトで、私のように本業の大学病院勤務と掛け持ちしている人も半数近くいる。

シフトは「12月x日、正看護師15人」など、必要な人数が決められていて、希望者が自分でシフトを確定する。基本的に勤務するかどうかの決定権はスタッフにあって、上司にはない。ところが、ブースター接種の日程が前倒しになると、毎日のようにバイト先から「シフトに入れないか?」と連絡が来るようになった。

ワクチン接種会場での正看護師の時給は国が決めていて、ロンドン以外では一律20%の税金を引かれた手取りが日本円で1700円(1ポンド150円で計算)。交通費は支給されない。

半分の接種ブースに看護師がいない事態

12月の忙しいときにバイトの勤務数をあえて増やす人は多くはない。それでも接種会場は国の指示通り、キャパシティーを目一杯にした。その結果、冒頭でも述べたとおり、看護師の配置率は少ない日には5割を切り、回転数は上がるどころかむしろ下がった。

「ただ今、館内の待ち時間はおよそ3時間となっています」

多くの場合、大規模ワクチン接種会場でのワクチン接種は予約制だ。だが、12月後半のある平日、3時間待ちのアナウンスが流れてきた。「この時間を指定してきたのはそっちだろ!」「3時間も会社を中抜けできるか!」「責任者を出せ!」と、現場担当者が予約者に詰め寄られる事態となった。

それでも国は、1日当たりの目標接種件数を各接種会場に求めてきた。そこで出された案が、冒頭でも挙げた「24時間オープン」だ。これは毎日24時間、週末や祝日前だけ24時間など、会場によって多少の方針は異なる。私のバイト先は後者で、平日は深夜までの延長、週末は24時間体制が敷かれた。

皮肉なことに、時給が上がる夜勤ではシフト希望者が増え、スタッフ配置率は昼よりも高くなった。また「夜中の3時に接種予約者など来るのか?」との当初の懸念とは裏腹に、深夜でも混雑のない程度に来場数はあった。
その一方で、メインとなる昼間の看護師配置率は相変わらず低く、待ち時間も改善されないままだった。

スタッフ配置率が低い理由は、高い病欠率も挙げられる。感染拡大するなかで、スタッフも次々と感染し、もしくは感染疑いのケースが増えた。私自身も12月後半にコロナ感染が疑われる症状が出た。簡易検査では「陰性」だったが、勤務先の大学病院からはPCR検査で陰性証明が出るまで自宅隔離をするよう言い渡された。

イギリスではPCR検査は症状があればあちこちで受けられるが、検査希望者が殺到して結果が出るまで数日かかるようになった。以前は24時間以内に出ていたが、今回の私の場合は丸3日かかった。こうした検査結果の遅れも、スタッフの職場復帰に時間がかかる原因ともなっている。

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