大隈重信没後百年「早稲田の源流」は長崎にあった 教育者の原点と知られざる医学発展への貢献

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さて、今日の医学は、単なる医学、あるいは、医学博士レベルの研究や教育では成立しなくなっている。医学のほかに、工学、理学、化学、機械学、生物学、心理学、社会学、体育学、生理学などあらゆる叡智を結集した発想が不可欠である。早稲田大学は、病院こそ付設していないが、総合大学の強みで、それぞれの分野ですでに優秀な人材と設備を整え、最先端の研究と実績をあげている。

1つの流れとして、早稲田大学では人間科学部が1987年に創部されている。従来の学部の垣根を取り払って、自然科学、人文科学、社会科学の分野を総合した、「文理融合型」の学部である。医学だけでは人間社会が抱える問題を解決できない時代が到来している中での創部だった。

この人間科学部の発想は、どこか、「政経学部」を連想させる。早稲田大学の前身、東京専門学校を設置する際、法科から、政治学や経済学をはずし、しかも政治と経済をドッキングさせた。早稲田大学の看板学部でもある「政経学部」設置はユニークな大英断だった。

悲願の医学部開設は実現するか

また、早稲田はすでに、東京女子医大や日本医科大学、筑波大学医学群などと連携協力して、研究し人材育成にも努めている。こうした発想を持ち、実績を積んでいる今の早稲田大学は明日にでも医学部を始動できる態勢にあるといえる。

最近の早稲田大学に関する医学がらみのニュースとして、早稲田大学付属・系属校から医学部への推薦入学が可能となった。今年四月から日本医科大学へ6人の推薦枠が実施される。早高学院(東京都練馬区)、本庄学院(埼玉県本庄市)、早実高校(東京都国分寺市)の3校からそれぞれ2名ずつ、推薦され入学が可能となる。ワセダから医学部への道の1つが拓けたことになる。

早稲田大学では、2018年11月、田中愛治総長が就任時、「生命医科学の研究・教育を抜本的に拡充する必要がある」と述べている通り、医学部設置の展望を重視している。医学部実現までには険しい道のりと周到な戦略も必要となろう。

現在、医科大や医学部の経営は厳しいものがある。資金力も医学部経営には必須。だが、ワセダは近年、寄付金の多さに加え、OBの熱意が大きな支援材料となっている。

早稲田に医学部設置は徐々に熟成しつつあるという印象を受ける。大隈スピリットを基盤にした国際的視野を持った〝早稲田医学〟に久遠の理想を現実化させる日がいつ訪れるのか。

本年、2022年は大隈重信没後100年、さらに、早稲田大学創立140周年の節目の年である。このメモリアルイヤーに医学部設置のニュースは発信されるのか。期待が膨らむところである。

山崎 光夫 作家

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やまざき みつお / Mitsuo Yamazaki

1947年福井市生まれ。早稲田大学卒業。TV番組構成業、雑誌記者を経て、小説家となる。1985年「安楽処方箋」で小説現代新人賞を受賞。特に医学・薬学関係分野に造詣が深く、この領域をテーマに作品を発表している。主な著書に『ジェンナーの遺言』『開花の人 福原有信の資生堂物語』『薬で読み解く江戸の事件史』『小説 曲直瀬道三』『鷗外青春診療録控 千住に吹く風』など多数。1998年『藪の中の家 芥川自死の謎を解く』で第17回新田次郎文学賞を受賞。「福井ふるさと大使」も務めている。

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