ボランティアがつなぐ、被災地の養殖業復興 労働力提供、起業支援で生活再建を後押し

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漁師の西條幸正さんと、わかめの芯抜き作業にたずさわる木下さん(中央)、島林さん(右)

東日本大震災による津波で養殖業者は大きなダメージを受けた。風光明媚な入り江が続く宮城県石巻市北上町の十三浜大指でわかめ養殖を営む西條幸正さん(48)もその一人だ。

高台にある自宅こそ津波被害を免れたものの、わかめの塩蔵工程に用いる機械や漁具など多くの生産手段を喪失した。取引先の多くも失い、売上高は震災前ピーク時の2割にまで落ち込んだ。

「それでも養殖をやめるつもりはまったくなかった」という西條さんだが、最も頭を悩ませたのが人手不足だった。震災前は常勤の従業員がいたうえ、収穫期にはパートを採用することができた。だが、震災をきっかけにそうした人たちの多くが登米市などの内陸部に住まいを移してしまった。

「自分と息子とおふくろの3人だけが残り、あとは春休みに高校生のアルバイトを雇って何とかしのいできた」という西條さんに援助の手を差し伸べたのが、石巻で活動するボランティア団体「ピースボート災害ボランティアセンター」の山元崇央さん(38)だった。

漁師とボランティアをマッチング

「『イマ、ココプロジェクト。』という漁師さんの生活再建をお手伝いする事業を始めたのですが、参加をお考えになりませんか」

人手不足の漁師と「お手伝いとしての労働力」を提供するボランティアをマッチングし、漁業の復興と生活再建を後押しする――。詳しい説明を聞いた西條さんは「なるほどうまい考えだ。一つ頼んでみるか」とボランティアの受け入れを決めた。

ボランティアの受け入れに際して、ピースボートは参加費として3000円をボランティアから徴収する一方、漁師からも5000円の支払いを求める。被災した漁師にもわずかとはいえ費用を負担させることについては、ピースボート内部でも反対意見が出たという。だが、事業の規律を保つうえでも「そこは譲れない一線」と山元さんは語る。

「イマ、ココプロジェクト。」の受け入れ期間は土曜日をスタート日とした7日間(作業日は6日間)が原則で、18~45歳が対象。参加者は漁師の自宅や地区の集会所などに宿泊して、1日7時間程度の作業に汗を流す。記者が西條さんの作業場を訪れた日には、ボランティアで参加した二人の女性がわかめの芯抜き作業を手伝っていた。

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