そこのあなた、詐欺・詐称していませんか?

『詐欺と詐称の大百科』に描かれる華麗な手口

どこの国でも医者とパイロットは人気と信頼のプロフィールのようだ。この2つの職業をかたり、次々と小切手詐欺を働いては高飛びを繰り返した男は、26カ国を股に掛け、何百という犯罪を犯したが、そのあまりの巧みさが買われて、有罪判決を受けて服役したのちにセキュリティコンサルタントとなり、こんどこそは合法的に大金持ちになったという。

あるいはまた、19件の殺人、薬物犯罪、強奪などで指名手配をされていた男。彼の財布は偽のカードでパンパンで、どのカードを出すかでカメレオンのごとくアイデンティティを使い分け、追っ手の目をくらませた。

写真付きの公的な証明書や指紋、DNA、様々なデータベースと、個人を特定する情報や手段が豊富にある現代でも、どこかひとつ穴を見つけて偽造し、それを額面通りに信用させることができれば、他のチェックはなされずに終わる。ならばあつかましく、大胆にふるまうに限る。

アイデンティティを偽るのは犯罪者だけではない。正体を隠した警察官や諜報機関のエージェントが、“国家の敵”とみなされた組織に潜入するのは、手法としてはオーソドックスなものである。イングランドの、地球温暖化に対する反対運動を行っていた環境保護活動家グループ内で、石炭火力発電所占拠という過激な計画を主導していたのは、潜入警察官だった。彼は活動家たちを一網打尽にすることに成功したが同時に身分がばれてしまい、今現在、身を守ってくれなかったスコットランドヤード(英国警察)に対し過失責任を問う訴訟を起こしている。

アメリカではたびたびネイティブアメリカンを詐称するものが現れるという。詐称者はネイティブアメリカンの歴史の悲劇を背負いつつ、同時に、今日のネイティブアメリカンにふさわしい尊敬を得ることが出来る。過去にはメディアでもてはやされて高い社会的地位を得た者もいた。激しい人種差別を受けた時代から、尊敬を持って正しく遇される時代へと社会の態度が変化していくのを巧みに利用したのである。

問題は、彼ら詐称者はネイティブアメリカンの歴史や文化を誤って伝えるということだ。マジョリティが受け入れやすいマイノリティ像を演じてしまうのである。長い目で見たときに真の理解を妨げることにつながってしまうことを思えば、その罪は重い。

"だまされた者たち"の物語

こうして“詐称する者たち”の物語を次々に読んでいると、実は、これは“だまされた者たち”の物語なのだとわかってくる。

ひとは「見たいものを見る」。本当にやすやすと詐称者たちの自己申告を信じる。知り合った“感じのいい”、“気持ちのいい”人のことを、いちいち疑ったり、裏を取ったりはしないのだ。

本書に登場する多くの詐称者たちは、最終的にはバレた者たち、失敗した者たちである。さて。天網恢々、すべての詐称者たちはこうして終わりをみるのか。それともこれは氷山の一角なのか。

いやそもそも、一切の偽りがない人間なんてどれほどいるというのか。人は皆、ほんのちょっぴりの詐称をしているものだとも言えるかもしれない。

一読して荒唐無稽。だが、やがてじわじわリアル。そんな物語の数々が楽しめる本である。

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