楠木:松本さんはトレーディングの仕事をしていたわけですが、「自分で場所をつくって稼いじゃう」というのはトレーディングに多くて、セールスではそういう人はあまりいない?
自分は「防人」ではなく「屯田兵」
松本:いや、セールスも同じです。お客様相手でも、何かしら発掘をする人は必ずいます。さっきの巨人の話と同じで、金融も、大口顧客を抱えて成績を上げるのはリスペクトできません。既存のシステムに乗っかって、ちょっと業績を伸ばして大きい顔をしているやつは好きじゃない。僕は自分自身を防人(さきもり)でなく屯田兵だと、いつも思っていました。たとえば、トレーディングで新しいデリバティブを始めるとなると、最初のセットアップが大変です。プログラムをつくったり、戦略やアイデアを考えたり、セールスやマーケターを雇ってきてトレーニングをしたり。そこは猛烈に苦労するけど、たまらなく楽しい。だけど、それが動き始めて儲かるようになると、後輩に「後はおまえがやれ」と譲る。そんなことを繰り返していました。
楠木:単に何か新しいことをやるのが好きだというのとちょっと違いますね。
松本:儲かっていたビジネスがぐちゃぐちゃになったところに入っていったり、高リスクで人が避けることをやるのが好きです。1997年3月に橋本内閣が金融ビッグバンを提唱したとき、僕はすぐさま「ビッグバン・シフト」をやろうと考えました。それまでの証券会社は、おカネがある日本の機関投資家に金融商品を売っていました。しかし、これからは逆になるのではないか。日本のいろいろな機関投資家から、証券会社が不良債権を購入するのが主流になる、と思ったのです。
当時の僕はゴールドマン・サックス証券のパートナーでしたが、「やれ」と言ったところで、リスクだらけだから誰もやりません。ゴールドマン・サックスのような会社は、上司の命令でも結果が出なかったらクビですから。しかたなく独りでビッグバン・シフトを始めると、結果、ものすごい儲けを出すビジネスになりました。でもまた、儲けが出るようになったら後輩にそのビジネスを渡してしまいました。そうやっていつも屯田兵として次々と開拓をしていくのです。
楠木:結果よりもプロセス?
松本:プロセスというよりも、自分がどれだけ付加価値を生んでいるかですね。
楠木:つまり、自分の投入と付加価値の因果関係が、はっきりとわかることが好き。
松本:すでに動いている大きなビジネスの場合、誰がやっても一個人が大きな付加価値を生み出すのは難しい。付加価値を生んだとしても、多くはイノベーション的な付加価値ではなく、マネジメント的な付加価値の可能性が高い。
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