中国の経営者が稲盛イズムにはまるワケ

儲けても儲けても、幸せになれず

僕は、この現象に触れて、TEDでの、全米心理学協会元会長マーティン・セルグマン氏による、「何が人間を永続的に幸せにするのか?」というプレゼンを思い出した。

幸せには、①快楽、②没頭、③意義という3つがある。①快楽は、レジャーやショッピング、スポーツなどによって、肉体的にあるいは感覚的に得られる幸せ。②没頭は、仕事や趣味、恋愛や研究に没頭して得られる幸せ。最後の③意義は、自分の長所を使って、何かに人生を捧げることによって得られる幸せ。

彼は、①快楽の幸せは、慣れが生じてしまうため、次々に、より強い快楽を必要とし、持続させることが難しい。幸せを持続させるためには、②没頭や③意義へとステップアップすることが必要と言っている。

中国の経営者の話を聞くと、まさにこれに当てはまる。中国人経営者が、最初、稲盛氏に興味を持つのは、「大富豪の経営者」「JALを立て直した人物」として、あるいは「アリババのジャック・マーが信奉している」ということからのようだ。きっかけの動機は「もっと儲ける方法を知りたい」というのが本音に思える。

儲けても儲けても、満たされない。だから、もっと儲ける方法を探す。そして「儲けるヒントを持っているかもしれない」人物、稲盛和夫氏に興味を持って本を手に取る。イベントに参加する。しかし、そこに書かれているのは、儲け方ではなく、意義のある人生の創り方。そして、彼(彼女)は「自分が満たされなかったのは、儲けが足りないからではなく、没頭できることや、身を捧げるべき人生の意義を見いだしていなかったからだ」と気づく。

単純化して中国をみるのは禁物

今の中国は、まだまだ「快楽の幸せ」を求める段階。しかし、一部の、それが満たされ始めた人々は、別の幸せを求め始めている。一定豊かになった人々の心に溜まった澱を取り除くカタルシスの作用。それが、この稲盛イズムの大人気を生んでいるのでは無いかと僕は思う。

そういえば、就職活動の「企業を見るポイント」では、最近になって「報酬」がベスト5から消えた。都会の若者の間では、「車は欲しくない」という人が増えている。ライフスタイルにこだわりが芽生え始めている。

食品の安全問題と稲盛人気は、正反対の価値観を象徴する現象だ。しかし、スピードの速さゆえに、その正反対の現象が同時に、しかも相当なインパクトで起こってくるのが中国だ。

物事を単純化して、ステレオタイプに見ていると見誤る。この国の中には、幾つもの国が同時に存在していると思った方がいい。この連載では、そんな中国で起きていることを、上海に駐在している私の目線で切り取り、読者の皆さんに届けていきたい。

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