周辺自治体が策定する住民の避難計画も審査対象にすべきだとの指摘には、「原子力災害対策特別措置法(原災法)に基づいて対策が講じられる」とだけ答えた。
日本では、原子力災害対策は災害対策基本法の特別法として原災法が定められ、原子力事業者と周辺自治体に防災計画の策定を義務づけている。安全規制と原子力災害対策が異なる法体系の下に置かれており、規制委が原発の安全性を審査するにあたって、住民の避難計画は審査対象となっていない。
米国では、住民避難計画を含めた十分な緊急時計画(Emergency Plans)が保証されていると原子力規制委員会(NRC)が判断しなければ、原発の運転が許可されないと規定されている。州と地方政府が策定した緊急時計画の実効性については、NRCは連邦緊急事態管理庁(FEMA)による評価を基に判断している。ニューヨーク州のショーラム原発のように、自治体や住民が同意できる実効性のある緊急時計画を策定できず、商業運転を行う前に廃炉に追い込まれたケースもある。
実効性の保証なき住民避難計画
現状、川内原発周辺自治体による避難計画の実効性に関しては、数多くの問題点が指摘されている。原発から10キロメートル圏外にいる要援護者の避難計画の策定が先送りされているほか、避難する住民や車両のスクリーニング(放射線汚染検査)の場所も決まっていない。また、大半の自治体の避難計画は、風向きに応じて避難先を変えるものにはなっていない。有事における道路の渋滞状況の想定が実効性を欠くとの指摘や、より詳細な避難時間のシミュレーションが必要との意見も多い。
原子力を含む災害リスク管理が専門の広瀬弘忠・東京女子大学名誉教授は、現状の避難計画について「自治体へ丸投げされ、結果的に実効性の乏しい避難計画になっている。福島の教訓がまったく生かされていない」とし、「原子力災害の大きさを考えれば、原発の再稼働を判断する要件として、実効性のある避難計画の策定は当然入れるべき」と語る。
規制委の田中委員長自身、「規制基準と防災は車の両輪」と常々述べてきた。だが、防災・避難計画は規制基準とは別の法体系にあり、所管が内閣府、策定責任は自治体にあるため、「実効性があるかどうかを言う立場にない」としてきた。
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