トヨタ、メキシコ新工場が問う"章男流"の真価

成長への投資を求める現場と隔たり

複数の関係者によると、トヨタの事業部は新工場の建設地を自動車関連企業の進出が活発なグアナフアト州、ケレタロ州などがあるメキシコ中央部で検討している。だが、章男社長ら経営陣からの許可待ちで、工場新設が決まるかどうかは早くて来年初頭になる見通しだ。だが、石橋を叩いてもすぐには渡らない社長の慎重姿勢を考慮すると、決定はさらに遅れる可能性もある。

メキシコ新工場に「待った」がかかるのは、実はこれが初めてではない。ホンダ<7267.T>がことし2月に稼働させた新工場の土地も、トヨタがもともと検討しており、メキシコ政府とも最終調整に入っていたが、ぎりぎりのところで見送り、ホンダが進出したという経緯がある。

工場新設を進めたい現場の目的は、単なる規模拡大だけではない。複数の関係者によれば、新工場では小型車「カローラ」を生産する予定で、北米よりもメキシコのほうが人件費が安いなどコスト低減も同時に実現できる。工場新設はそうした効果をにらんでの投資で、先手を打っておかないと需要が増えてからでは遅い、との思いがある。

だが、米国テキサス工場にもう1つ工場を建てられる敷地がまだある。さらに、米国が金融緩和の縮小を進めると、成長を見込んでいる新興国が通貨安、景気悪化に見舞われるのではないか。章男社長はさまざまな思いを交錯させ、工場新設には極めて慎重だ、と関係者は話す。

トヨタ広報は、ロイターの取材に対し、「メキシコも含め、現地の需要動向に対応するため北米生産体制については常に検討しているが、決まっていることは何もない」と説明、「既存の工場、生産能力を最大活用する」としている。

過去との決別に強い意思

2009年6月の就任から5年の間に数多くの困難に直面した章男社長は「台数ありき」の考え方に強い抵抗感がある。急激な規模拡大がたたって兵たんが伸び切る中、台数に執着するあまり、トヨタの代名詞だった品質に対する信頼まで失った。投資再開を判断する上で、社長にはこうした「過去と決別するという意思が強い」と別のトヨタ幹部は話す。

章男社長の信念は、最近の決算会見でも鮮明だった。14年3月期にコスト削減効果や円安の追い風も受けて、営業利益は6年ぶりに過去最高を更新した。自動車産業史上、初めて世界販売1000万台の快挙も成し遂げた。それでも章男社長は会見で「再び成長拡大局面に入りつつある今こそ、実は危機的状況だ」と気を引き締めた。

トヨタの15年3月期の営業利益予想は前期比0.3%増の2兆3000億円。章男社長は、ほぼ前期並みにとどまる今期見通しについて「意思を持った踊り場」と説明。記者やアナリストらは「成長をやめるのか」と耳を疑ったが、社長は「持続的成長、もっと良いクルマづくりが一番の目的だ」とし、収益や台数は「その結果として自然についてくる」という信念を繰り返し強調した。社長は就任後、これまであった、サプライヤーとも共有していた長期の経営方針や台数目標の策定を取り止めている。

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