野田佳彦前首相は個人的に集団自衛の枠組みに賛同している。野田政権下の次期防衛計画研究委員会では、その方向が暗示されていた。しかし、民主党内でコンセンサスが得られず、明言できなかった。つまり、集団的自衛権の行使容認は別に安倍首相のオリジナルではない。この政策方向に反対するような、まともな政治指導者が日本に一人でもいるとは思えない。
歴史問題という文脈での反対意見はある。安倍首相が進めているプロセスについて戦術的な理由で反対する向きもある。しかし、向こう10年間に首相になるチャンスがある政治家で集団的自衛権に反対する者はいない。その意味では革命的変化ではない。
――安倍首相は日本の憲法が“戦勝国の正義”によって押しつけられたという理由で憲法9条に反対している。しかし、外交・防衛エリートは集団的自衛権を、もっと現実的な理由で支持している。
安倍首相自身も、現実的なアプローチをとっているのではないか。憲法改正を求める彼の支持者に対しては、それには何年もかかること、また、安全保障環境の変化の中で当面の問題に取り組まなければならないと説明している。
2013年夏に安倍首相に会った時、将来の憲法9条改正とは別の問題だと語っていた。憲法9条を変えたいと思っているが、当面の優先すべき課題ではないと考えているとも明言した。優先すべき課題は当面の安全保障問題にどう対処するかであり、憲法9条の解釈を変更する道を選んだ。
解釈変更でなく憲法9条改正を求める右翼の支持者からのプレッシャーは確かにある。しかし、いまそれをするのは非現実的であり、彼は最終的には現実派に与している。
安倍首相は強権的な手法を取らなかった
――安倍首相は愛国主義を甦らせ、戦後の敗戦国の自己イメージを終わらせるために大々的な公開討論をしたかったのではないか。
それをやったら激しく非難されていただろうが、今は、それをやらなかったことで非難されている。野党やメディアの中には安倍首相の説明はハッキリしないとか、分かりにくいと批判している。しかし、彼は自分の提案した憲法解釈変更について国会で多くのことを語っている。彼は強権的な手法は取らず、国民の理解と政治的支持、とくに連立与党の公明党の支持をできる限り得ようとした。
皮肉にも安倍首相のオープンかつ透明なアプローチが、かえって国民を混乱させた。国民は知れば知るほど混乱していった。世論調査では半数以上が説明不十分という結果だった。説明が効果的でなかったのは透明性不足というよりもコミュニケーション能力不足にあると思う。
――しかし、前進することはできた。安倍首相は満足しているのではないか。
そうは思わない。集団的自衛権の問題が唯一の理由ではないにしろ、安倍首相の支持率が40%台中ごろに滑り落ちたことや滋賀県知事選で自民党支持候補が落選したことについて不満足だったことは間違いない。
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