「真剣に離婚を考えた」夫が今も妻を支える理由 「歩いて帰ってきなよ」が変えた夫婦関係

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「震災後、妻と話し合うなかでわかったのが、お互いがお互いのことを羨ましく思ってるということ。僕はクリエイターには、大きく分けて天才型と調整型という、2種類のタイプがいると思っています。

妻は前者で、自分が作ったものはいいって全力で信じられて、周りに理解されなかったら『なんでみんなわからないんだろう』って思える人。それくらい、自分をしっかり持っているんです。一方の僕は調整型で、いろんな状況での組み合わせを考えて面白いものを作ったり、複数人の意見を組み合わせたりするのが得意。対極にいるクリエイターが、同じ家の中にいるのがわが家なんですよ。

ひとつのボタンを選ぶのに8時間もかけている妻を見て、僕は本当にすごいよなあって思う。でも、いろんな人の話をまとめて、いいアイデアを出す僕のことを、妻は羨ましいと思ってきたことを知りました」

杉山さんによると、もともと妻は「言語化がとても苦手」だという。感性豊かなアーティストには珍しくないことかもしれないが、だからこそ、彼女の本当の気持ちに気づくのに、時差があることもわかってきた。

「かつて幼い長女が熱を出したときに、妻は『風邪を引いちゃったからよろしく。私、休めないから』って頑なに会社を休もうとしなかったんです。

こっちとしてはせめて半々で休めないかなって思ってたんですけど、それから10年くらい経った時に、『あの頃は、産休・育休を取って復帰して働いているデザイナーが、うちの会社にはいなかったの。だからこそ、子育てしながらでも、十分に働けるという前例を作らなきゃいけないと思ってた。後の人たちのことを考えると、休む気にはなれなかった』って言ってきて。

当時、一切言語化されなかったことを、10年越しで聞いたんです。そんなこと思ってたんだ。さすがに言ってくれなきゃわかんないよ、いくら夫婦でも……って感じですよね(笑)」

「妻は天才」と思うことで変化

昔は理解できず恐れていた妻の言動が、まるでパズルのピースかのようにカチッとハマって理解できた瞬間だった。そこで妻の才能、プロ意識の高さを痛感した末、杉山さんはあるひとつの結論を、自分の中で導き出したという。

「『天才』って言葉を妻に当てはめてたんですよ。なんでこれがわからないんだろう、できないんだろう、って思っていたけど、『ダメな人だからこれができないんだ』じゃなくて、『この人は天才だからなんだ』って思うようになった。そうしたら、怒りを感じなくなったんです。自分の中で、とても大きな変化でした。

そして、妻も大きく変わったと思います。伝わりやすい言葉が増えてきたし、自分のことだけじゃなくて、家のことや家族のことにもしっかりと思いやりを持って考えて、意見を出せるようになったんです」

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