ビートルズ「最後のライブ」はなぜ屋上だったのか 『ジョン・レノン 最後の3日間』Chapter37

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だがそれはポールたちも同じことだった。ジョンは、彼らの目にも緊張がありありと現われているのを見て取った。

「ステージに出たくない」と、ジョージがごね始める。「だいたい、なんのためにこんなことするんだ?」と、リンゴもぼやいた。

こんなとき、ゴーサインを出すのは、やはりジョンの役目だった。

オープニング・ナンバー「ゲット・バック」

ヨーコの毛皮のコートを羽織り、眼鏡を直すと、ジョンは楽屋から屋上へと続く階段を登り始めた。

その日はテムズ川から強風が吹いていて、ヘリコプターからの空中撮影はできそうになかった。こうなると、メンバーのクローズアップのショットと、通りに集まる人々のショットをうまく繫いでいくしかない。

ジョンの手は、ギターの弦を押さえられないほど冷え切っていた。彼は用意されたギターをどうにか手に取り、ビリー・プレストンの見慣れた顔を見やった。

ビリーは、1962年にビートルズがリトル・リチャードのバック・バンドとしてツアーをしたときに出会ったアメリカ人のR&Bキーボーディストで、電子ピアノでこのセッションに参加していた。

ケン・マンスフィールドは、4本のタバコに火をつけた。吸うためではなく、ジョージの指先を温めるためだ。

オープニング・ナンバーの演奏が始まった。「ゲット・バック」だ。

通りすがりの人々がビルの前で歩みを止め、次々に上を見上げて、空を指し始める。

「その通り」とジョンは言ってやりたかった。

ビートルズのフリー・コンサートだ。1966年のキャンドルスティック以来、初めてのライブが、たったいま、きみたちの頭上で始まったのさ。

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