ビートルズ「最後のライブ」はなぜ屋上だったのか 『ジョン・レノン 最後の3日間』Chapter37

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この様子を文字通り通行人の頭上から捉えていたのが、アメリカ人カメラマンのイーサン・ラッセルだった。

ジョンから依頼を受けたラッセルは、屋上から隣のビルの壁によじ登るという危険を冒して、演奏するビートルズの姿を頭上から撮影することに成功した。

ロンドンの街を背景にしたジョンとポール、ジョージ、リンゴ――世界で最も有名なロックローラーたち――の姿は、周りを取り囲むほかのすべての人々と同様に、小さく見えた。

「彼らも、普通の人間なんだ」

シャッターを切るラッセルの心を、そんな思いがよぎった。

ビートルズ、伝説のラストライブ

ビートルズはこの日、42分間にわたって5曲を披露した。

「ゲット・バック」は3バージョン、「ドント・レット・ミー・ダウン(Donʼt Let Me Down)」と「アイヴ・ガット・ア・フィーリング(Iʼve Got a Feeling)」は2回ずつ演奏したので、テイクは9回分だった。

ロンドン警視庁からやってきた警官たちは、アップル本社のビルを取り囲み、スタッフにこう言い渡した。

「10分間やる」

とはいえ巡査たちとて、もちろんビートルズのファンだ。約束の10分が過ぎても、すぐに演奏を止めることはしなかった。

そしてついに、警察がビル内部に立ち入り、屋上に向かった。スタッフたちは念のため、大急ぎでトイレに駆け込んでドラッグを流した。

警察が屋上に辿り着いたところで、コンサートは終了した。ジョンは、マイクに向かって語りかけた。

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「バンドを代表して、お礼を言いたいと思います。オーディションに合格できたならいいんだけど」

ポールとジョージ、リンゴは、これを聞いて微笑んだ。4人の胸にある想いは、同じだった。

僕たちはいまでも、世界最高のロックンロール・バンドだ。このルーフトップ・コンサートがビートルズとして最後のライブになるかもしれない予感はあったか、と2019年のインタビューで聞かれたポールは、こう答えている。

「いいや、そんなふうには感じなかったよ。ほかのメンバーも同じじゃないかな。ただたんに、たくさんの曲を書いてリハーサルをした成果として、あそこで演奏しただけだった」

だが終わりというものは、必ず訪れる。予感のあるなしにかかわらず。

ジェイムズ・パタースン
James Patterson

1947年米国生まれ。犯罪ものや心理ものを得意とする社会派で、
『ニューヨークタイムズ』紙のベストセラー1位を数多くの書籍で獲得している。デビュー作の『ナッシュヴィルの殺し屋』でエドガー賞を受賞。
ほかにもエミー賞、国際スリラー作家協会賞などを受賞しており、著作は150点以上に及ぶ。2019年にはNational Humanities Medal(米大統領から贈られる賞)を獲得した。翻訳された作品には他に『大統領失踪』『殺人カップル』などがある。映画化された作品も多い。自論は、「本嫌いの人などおらず、ツボにはまる本に出会っていないだけだ」。

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