意外とわびしかった「紫式部」「和泉式部」のお正月 古典からわかる貴族レディース「悲喜こもごも」

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女房たちも準備に追われて忙しなく行き交い、上達部が彼女らの姿を少しでも見ようとそわそわしている。外を見ると、晴れ渡った空が広がって、雪の間から色づき始めた若草が垣間見える。

しかし、人々も自然も祝祭的なムードに包まれているにもかかわらず、その近くの場所で寂しげな表情を浮かべて、身を潜めているきれいな女性が1人いる。

年かへりて、正月一日、院の拝礼に、殿ばら数をつくして参り給へり。宮もおはしますを、見まゐらすれば、いと若う、うつくしげにて、多くの人にすぐれ給へり。これにつけてもわが身恥づかしうおぼゆ。上の御方の女房、出で居て物見るに、まづそれをば見で、この人を見んと、穴をあけさわぐこそ、いとあさましや。
【イザ流圧倒的訳】
冷泉院御所での元旦の拝賀の儀式があり、数多くの高貴な方々が参上する。カレが出かけるのを見ると、抜きん出て若くて、美しくて、他の人々よりもずっと素敵。女はそれが誇らしく思うと同時に、自らのみすぼらしい姿が恥ずかしくなるほどだ。カレの奥さんに仕えている女房たちも出てきて、見物しているが、儀式に行く人をそっちのけで、女見たさに障子に穴を開けて騒いでいるのが、おぞましくて目も当てられない。

緊張感の高い初めての正月

こちらは「女」こと、和泉式部のお正月の過ごし方である。春に芽生えて、夏に花咲いた和泉式部と敦道親王の恋は、秋に燃え上り、冬を迎える。

12月18日に彼女は愛人として宮の邸に迎えられたばかりだ。大好きな彼と思う存分一緒にいられる反面、肩身の狭い立場に追いやられている。北の方、つまり正妻は、同じ屋敷の反対側に陣取っているからだ。

敦道親王は父親である冷泉天皇の御所に向かって出かける準備をし、その姿は誰よりも立派で、知性と品格がにじみ出ている。そんなハンサムな彼をいつまでも見つめていたいが、周りは妙に騒がしい。普段なら憧れの対象である殿上人にしか目がない女房たちが出てきて、とんでもないスキャンダルを引き起こした愛人の顔を覗こうとするのだ。

障子に穴をあけるなんて、身分が低いとはいえ、貴族であるはずの彼女らがそんな蛮行に走るとは考え難い。しかし、そのイメージは和泉式部に注がれた、好奇心と嫌味に満ちた眼差しを的確に表現している。女は怖いっ……。

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