さらによしずみから、こんな話を聞かされてた。今住んでいる分譲マンションを売ってまとまったお金を作り、事業が軌道に乗るまでは、そのお金で赤字を補填していく、と。
「『どのくらいの期間で、軌道に乗ると思っているの?』と聞いたら、『半年くらいかな』と言うんです。そして、『その半年間は、実家で暮らす。結婚は、事業が軌道に乗るまで、待っていてほしい』って。半年で軌道に乗ると思っているなんて、見通しが甘くないですか? 待たされるだけ待たされて、でも事業は失敗。結婚はできない。そうなったら、待っていた時間がムダになってしまう」
そう伝えると、その日のよしずみからは、何の答えも返ってこなかった。そして、その2週間後に、「今回の婚約はなかったことにしてほしい」という破談の申し出があった。
彼女の誕生日にプロポーズをされ、そのときにはあやこが渡された花束を抱え、2人で寄り添いながら微笑むツーショット写真が、私に送られてきていたのだが……。
「私も悩みました。一度は、残りの人生を一緒に歩いていこうと決めた相手です。夢を応援できない自分は、人としての器が小さいのではないかって。破断の申し出をされたときに、『もう少し、時間をかけて考えない?』と言ったのだけれど、『あやこさんは、僕と結婚したいんじゃなくって、“結婚“がしたいのだと思う。そんなときに、たまたま僕が現れた。だから、相手は僕じゃなくてもいいのだと思う』って言われたんです」
そんなふうに思われていたことが、悲しかった。ただ彼のなかでは、結婚よりも、夢を追いかけることに、もう気持ちが向いていた。
私、結婚に向かない女かもしれない
「私って、結婚に向かない女なのでしょうか」
あやこの今回の結婚は、再婚だった。最初の結婚も、相談所での出会いだったという。入会面談のときに、前回の結婚相手、きみひこ(仮名)のことを、こんなふうに語っていた。
「一部上場企業の社員で、同い年。年収も安定していて、見た目も清潔感がありました。彼は、初婚だったのですが、“よくこんな人が独身のまま残っていたな“と思ったんですよ」
きみひこの両親はすでに亡くなっており、その遺産を相続していた。あやこは実際に貯金通帳を見たわけでないので、本当かどうかはわからなかったが、「数千万の預貯金がある」と言っていたそうだ。
当時あやこは会社員として働いていたが、結婚したら退社して、家のことをやりながら、週に何日か働くパートができればいいと考えていた。そして、きみひこの年収なら、そんな生活も可能だと踏んでいた。
ところが、「仕事をやめて、パートで働きたい」と伝えると、きみひこからこんなことを言われた。
「これから2人で暮らすことになったら、ただでさえ家の水道高熱費が上がるよね。昼間会社に行っていたら、お金も稼げるし、家の水や電気は使わない。でも、あやちゃんが家にいると使うよね。パートに切り替えて賃金が下がって、さらに家の水道光熱費が上がるというのは、賢い選択ではないでしょう? 仕事は続けたほうがいいよ」
そして、いざ結婚生活が始まってみると、きみひこの生活には1円のムダもなかった。倹約を飛び越えて、ドケチだった。
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