79歳の角川春樹は敗れてもなお新たな闘いに挑む 「紙の書物と町の本屋さんを守る」のが最後の仕事
〝鬼滅現象〟のあおりを受けて
2020年の夏から秋にかけて、角川春樹が監督を務めた映画『みをつくし料理帖』は3億5000千万円の製作費に対して2億円の宣伝費をかけてプロモーションを行った。
角川春樹が本文で語った、原作の読者層である30代から40代の女性以外に、東映の宣伝部は〝角川映画世代〟である50代から70代の観客層をターゲットとし、角川が200誌を超える取材に応じ、中高年が購読する『朝日新聞』を始めとする紙媒体に広告記事を載せた。
こうして『みをつくし料理帖』は満を持し、2020年10月16日(金曜日)に全国310館の劇場で公開された。折りしも、44年前に日比谷映画で『犬神家の一族』が封切られ、「角川映画」が始まったのと同日であることが、関係者の期待をいやが上にもつのらせた。
私は事前にインターネットでチケットを購入し、初日にグランドシネマサンシャイン池袋に出かけた。ロビーには10代の観客が溢れ、当日券売り場には長蛇の列が出来ており、私は彼らが『みをつくし料理帖』を待つ人たちだと思った。しかし、上映される劇場に入ると観客はまばらだった。ロビーにいた人々は同日に公開され、やがて日本映画の興行記録を塗りかえる『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(20年、外崎春雄監督)の観客だったのだ。
宣伝部が期待した中高年齢層は、10月から第2波が到来した新型コロナウイルスへの感染を恐れ、映画館に足を運ばなかった。そのうえ、彼らは、当時、感染源とマスコミが書き立てた10代から20代の観客が『鬼滅の刃』を観るため劇場に押し寄せ、各劇場のロビーが〝三密〟になっていることを新聞やネットで目の当たりにし、劇場に行くことをさらに控えた。そして、若年層の観客は『みをつくし料理帖』には興味を示さなかった。
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