79歳の角川春樹は敗れてもなお新たな闘いに挑む 「紙の書物と町の本屋さんを守る」のが最後の仕事

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年が明け、2021年1月8日に角川春樹は79歳の誕生日を迎えた。

角川はすでに宮司を務める明日香宮のなかに自らの墓を建てている。ガラスで作られた墓石には〝花の戦士〟と彫られていることを、「なんかアニメみたいな名前だけど」と聞き書きの合い間に笑って教えてくれた。

出版業界で最高齢の編集者

〝花の戦士〟のガラスの墓に入るまで、少なくとも90歳までは現役の編集者であり続けたい、と角川は語る。なぜなら角川が90歳のとき、息子が20歳になり、彼の成人を見届けられるからだ。「生涯編集者」でありたい角川は自らの名刺に「角川春樹事務所代表取締役社長 書籍編集局局長」と刷り、出版業界で最高齢の編集者であり続ける。

その年の秋、「食事をしませんか」と角川に誘われ、池袋の割烹『吉泉』に招かれる。

久々に角川に会い、私は『みをつくし料理帖』の話題を切り出しかねたが、角川は「あれはとても好きな映画です」と微笑んだ。私は二の句を継げず、「今朝は何時に起きたんですか?」と話題を変えた。

角川はこの日、3時半に起床し、地元の神社、上目黒氷川神社に行って神前の水を取り替えたという。いつも通り6時に九段下の角川春樹事務所に出社し、神仏に祈ったあと、本やゲラに目を通す。「本を読むことが仕事ですから」という角川は、1年に350冊の書籍を読み、手帳にABCのランクを付け、これはと思った作家にはすぐさま会いに行く。その席で、作家がこれまで書かなかった分野の企画を提案するのが編集者の仕事だ、と角川は語る。

いま角川は、本年度(21年)の角川春樹小説賞の受賞作、稲田幸久の『駆ける 少年騎馬遊撃隊』(21年10月刊)をいかに売るかに心血を注いでいる。「これほど力が漲った作品は滅多にない。上手いということを超えた根本的な力がある」と角川が激賞する37歳の稲田は本作を書くため広島県安芸市の職員を辞め、退路を断った。そして本を売ってもらうため、地元の書店回りを続けている。角川はまた、「コロナの時代に必要なのは詩だ」と思い定め、来春刊行の『にほんの詩集』(全12冊)を企画。30代から40代の女性読者層を狙うため、第1回配本に中島みゆきをラインナップした。

――本を読む人が減っていくことが不安じゃありませんか?

角川:たしかに読書する人間が少数になっていくことは間違いないですが、少数になれば、他の出版社は辞めていく。そうなればうちの勝ちじゃないですか(笑)。それに緊急事態宣言下でも店を閉めなかった本屋さんの売り上げは伸びました。閉塞の時代には本が必要とされているんです。

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