社会人10年目「痛い中堅」にならないための心構え 行動を伴わない指摘はただの「愚痴」である

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そんなときに、ある先輩から「河野は、絶対に長距離向きだ」と言われたことがありました。一緒に長距離チームでやらないか、とも。そのときは「それはありえないだろう。むしろ長距離は苦手だ」とさえ感じたため、聞き流してしまいました。

その後、数年がたち私はタイムが伸び悩む時期を迎えます。少し気分を変えてみようと、現役最後のシーズンを前に、オフシーズンの冬の間だけ長距離をやってみたのです。そのまま春の試合で長距離に出場してみたところ、やたらとタイムが伸びて、相対順位も高いところまでいきました。結局最後のシーズンだけ長距離のレースに出場して、大学の記録も立てることができたのです。

このときに、先輩の一言を思い出しました。あの時に助言を素直に受け入れて、数年間長距離競技のトレーニングをしていれば……。

ここでの私の学びは、「向き不向きは、自分でわかってないことも多い。新しい視点というのは、自分以外の人からもたらされるもの」というものでした。

異動のケースに当てはめてみると…

これを、今回のお悩みのテーマに当てはめてみると、次のような解釈になります。

『社会人10年目の壁を乗り越える仕事のコツ』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

一見何も考えられていないような異動・配属に関する社命であっても、意外に自分の特性を踏まえていることもあるかもしれません。今まで単なる食わず嫌いで、自ら望んではやらなかっただけ、ということもあるでしょう。また、迷いを後押ししてくれるのも社命だったりすることがあります。

私も、ここ数年は社命として誰かの背中を押す側に立つことが多くなりました。

「こうすればもっとこの人の能力が開花する」とか「実は、これをやりたいのではないのかな」と感じる場面では、その人に提案をしてみるようにします。

もし、「どうしてもこれがやりたい」と決めた道がない場合や、与えられた社命が自分の信念に反するものでないのであれば、まずは社命を受け入れ、経験値をあげるつもりでやってみると、新たな自分の側面を発見することもあるかもしれません。これを極めてみたい、と心底思えるような役割や領域と出会う可能性だってあります。

日本のビジネスパーソンの受け身マインドを助長する原因として、悪しき伝統のように言われる定期異動ですが、何も考えずただ唯々諾々と受け入れるのではなく、自分の可能性を広げる機会として活用してみてはいかがでしょうか。

河野 英太郎 株式会社アイデミー取締役執行役員COO 株式会社Eight Arrows代表取締役 グロービス経営大学院客員准教授

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こうの えいたろう / Eitarou Kouno

1973年岐阜県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学水泳部主将。グロービス経営大学院修了(MBA)。電通、アクセンチュアを経て、2002年から2019年までの間、日本アイ・ビー・エムにてコンサルティングサービス、人事部門、専務補佐、若手育成部門長、AIソフトウェア営業部長などを歴任。2017年には複業として株式会社Eight Arrowsを創業し、代表取締役に。2019年、AI/DX/GX人材育成最大手の株式会社アイデミーに参画。現在、取締役執行役員COOを務める。
著書に『99%の人がしていないたった1%のコツ』シリーズ、『社会人10年目の壁を乗り越える仕事のコツ』(ディスカヴァー)

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