「リープフロッグ」が日本企業に求められる理由 急速な「中国のデジタル化」にどう対応するか

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その結果、店舗やサービス事業者も利用者への応対が大きく変わり、一般消費者への安心感や信頼感を高める効果にも寄与している。現在、決済システムの9割以上はAlipay(支付宝)とWechat-pay(微信支付)の2社に集約されているが、その信頼性は高いと見られる。

3つ目は、中国のカエル跳び(リープフロッグ)文化だ。日本なら1歩1歩進むところを、数段飛ばして前進させることで、一気に世界に追いつき追い越す戦術である。

電話線の国内敷設の促進を途中でやめて無線を使った携帯電話を普及させたり、自動車ではガソリン車の技術獲得を飛ばして電気自動車(BEV)に移行させたり、生産・市場・技術のレベルを一気に世界トップクラスに押し上げている。

中国の優秀な経営者がよく言うのは、「考えたらすぐに実行し、実行しながら改善していけばいい」ということ。「考え込む時間がもったいない」ということだが、この合理性とスピードを重視する中国人の広い層に認められた環境が、今の中国にはあるといえる。

中国では、犯罪防止の観点から監視カメラが数億台設置され、その認識度は世界でトップクラスだ。そのアルゴリズムを使い、今ではマスクをしていても95%の確立で認識できる装置も生まれており、一部のレストランやコンビニでも決済システムに顔認証を採用している。

顔認証による決済システムにより無人のコンビニもオープンしている(筆者撮影)

ただ、最近ではプライバシー侵害や犯罪に悪用される不安から批判が高まり、商業目的の顔認証技術の使用を制限する見解も出てきた。

「リープフロッグ」は日本企業にこそ

中国は、ここ数年で大きく近代化してきた。5Gや中国版GPS、Wi-Fiなどのインフラ整備とともに、BATH(Baidu、Alibaba、Tencent、Huawei)をはじめ、大小を兼ねそろえたプラットフォーマーの充実により、一般消費者の悩みを次々と解決している。

また、さらに便利な生活を求めて、国内外の資金提供を受けた多くのスタートアップ企業は、中国国内だけでなく、アメリカで上場して投資家の注目を浴びることで、世界展開を図ろうとしているのが現状だ。

日本の一部の大手企業は、宇宙産業やBEV関連部品などで強みを持つものの、人口減少も始まっている国内の市場では拡大が見込めないため、ビジネスの実証は国内で実施するとしても、市場としては海外を目指している。

スタートアップ企業の支援において「先進国で一番遅れている」といわれる日本は、今だからこそリープフロッグで海外のいいところを取り込みながら、次のステップに挑戦していく土壌を作ることが必要だろう。そのためにも、アメリカだけでなく中国からもさらに学び、進んでいる部分を積極的に取り込む必要がある。

※論考は個人的見解で、所属とは無関係です。

湯 進 みずほ銀行ビジネスソリューション部 主任研究員、中央大学兼任教員、上海工程技術大学客員教授

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タン ジン / Tang Jin

みずほ銀行で自動車・エレクトロニック産業を中心とした中国の産業経済についての調査業務を経て、中国自動車業界のネットワークを活用した日系自動車関連の中国事業を支援。現場主義を掲げる産業エコノミストとして中国自動車産業の生の情報を継続的に発信。大学で日中産業経済の講義も行う。『中国のCASE革命 2035年のモビリティ未来図』(日本経済新聞出版、2021年)など著書・論文多数。(論考はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)

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