日本のサイバー防衛が心もとなさすぎる3つの訳 経済安全保障の核となる領域の体制整備を急げ

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第3の要因として、サイバー空間のセキュリティに対するドクトリンが存在していない点にある。

私はサイバーセキュリティへの国としての対応に不可欠な概念として空間論を基盤とするべきだと提案してきた。サイバーセキュリティは、インターネット上のサイバー空間での安全の体系であり、完全な、地球に1つの「グローバル空間」の問題だ。この空間を使用した国が関与した攻撃があれば、これはサイバーディフェンスの課題であり「国際空間」での解決が必要となる。このいずれもがわが国の国土の安全にかかわるサイバー犯罪の課題は、「国内空間」で解決するルールと方法がなければいけない。

例えば、サイバーセキュリティのアトリビューションはグローバルなサイバー空間を十二分に把握しつつ解決しなければならない。そのためには「サイバー防衛」と「サイバー犯罪」のための使命を担う主体を含めすべてが完全に連携しなければならない。サイバーセキュリティの統合的なドクトリンの確立が重要だ。

日本の課題の行方

わが国は2021年から新たなデジタル政策の実行を開始した。これは、民間に任せるだけではなく、官民個人、さらに、中央・地方のステークホルダーが一体となってデジタルテクノロジーを前提とした新しい日本社会を創造する政策である。

日本は世界一安心して生活できる安全な、そして戦後に限れば平和を実現した国であるという評価は世界の中でも高い。前出したサイバーセキュリティインデックスの低評価とは異なる世界を創造できるとの認識を持ち、自信を持って質の高いサイバーセキュリティ体制に取り組むのが望ましい。

2014年に発足した内閣のサイバーセキュリティ本部、警察による国全体のサイバーセキュリティの機能を統合するサイバー局の新たな設置、新しいサイバー防衛の計画、2021年に実現したデジタル庁の創設。これらを有機的に連携させる司令塔の機能の確立によりDFFT(信頼に基づいた国際データ流通の提案)などの新しいデータ駆動のサイバー空間の国際的な責任を担うことが新しい日本の使命である。

(村井 純/API地経学研究所所長、APIシニア・フェロー、慶應義塾大学教授、慶應義塾大学サイバー文明研究センター共同センター長)

地経学ブリーフィング

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『地経学ブリーフィング』は、国際文化会館(IHJ)とアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)が統合して設立された「地経学研究所(IOG)」に所属する研究者を中心に、IOGで進める研究の成果を踏まえ、国家の地政学的目的を実現するための経済的側面に焦点を当てつつ、グローバルな動向や地経学的リスク、その背景にある技術や産業構造などを分析し、日本の国益と戦略に資する議論や見解を配信していきます。

2023年9月18日をもって、東洋経済オンラインにおける地経学ブリーフィングの連載は終了しました。これ以降の連載につきましては、10月3日以降、地経学研究所Webサイトに掲載されますので、そちらをご参照ください。
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