日本のサイバー防衛が心もとなさすぎる3つの訳 経済安全保障の核となる領域の体制整備を急げ

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単純には中国やインドは最強のポジションにいることになる。先端ハードウェアの技術に加えて、データとソフトウェアによる技術、具体的にはAIのパワーこそが経済と安全保障に与える強力なインパクトとなる。このことを理解し、どのように未来を開拓するかが経済安全保障の核であり、地経学領域の使命となる。

サイバーセキュリティと経済安全保障:日本の課題

わが国が、サイバーセキュリティランキングで低い評価となる理由の歴史的な背景としては、3つの要因を考えることができる。

第1の要因は「民任せ」にある。重要インフラ分野などの国営から民営への経済政策としての転換は経済的な発展に有効だった。情報通信分野は公社による電信電話のインフラストラクチャーから、発展途上で学術研究から発展したインターネットへの移行を促すために民間の主導が重要視された政策の出発点にある。

1980年代のいわゆる第二電電政策が計画通り推移しなかった反動から政策は、アメリカ式発展を意識して、極めて強い「民主導」の原理で進められた。しかし、「民主導」が次第に「民任せ」へと拡大していった。国内と海外の情報通信に関する規制緩和は、国際海底ケーブルに関する戦略を民間に任せることになった。

インターネットに切り替わった情報通信サービスの発展は、国内半導体・電子機器産業の政策と完全に分離され、電信電話時代に世界最先端を誇っていた通信機器産業はわが国から消滅した。電力エネルギー、あらゆるインフラ産業、すべての産業分野がサイバー空間でデジタル情報を利用する現在では、この「サイバー空間は民任せ」の負のインパクトが深刻となってきた。

第2の要因には、各省庁、国、地方、基礎自治体という行政のレベルによるそれぞれの行政機関が作り上げてきた情報システムがばらばらに達してきたというシステム構造の問題がある。

1980年代から開始されてきた業務システムへの「OA」導入は、インターネット時代への切り替えへの躊躇とともに発展がスローダウンしていたように見える。1700余りの行政機関が独立した情報システムの構築をしたことと、国民の情報を管理する住基ネットなどの個人情報の処理が、その独立した情報システムの制約の中で運用されたことにより、行政のDXの遅れ、サービスの縦割り、パンデミック時の行政サービス立ち上げの遅れなどを生み出した。

この背景には地方行政の自治原則、個人情報への国のアクセスに対する法的な制限と国民のアレルギー、など法的文化的背景がある。

また、国として内政的に、また、国際的な安全を担う担当部署、国内の安全を担う犯罪担当部署、これらを新しいサイバー空間が実空間と完全に融合したSociety5.0の時代に統合的に機能させるための国の体制。これらの統合がいまだに実現されていないことがこの課題の原因である。

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