家飲みの質格段に上がる缶ビール「正しい注ぎ方」 いつもの家飲みがマンネリ化しない意外なワザ

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社会も、人間も、何か考えることも、すべてを断ち切った「無の時間」こそが、家飲みの神髄。ここでは次第に定まってきた太田流家飲みの作法を紹介しよう。

基本中の基本は、専用のお盆を用意すること。私のは、ある露天市でたしか500円で買った、35センチ×25センチほどの長方形木製。投げ売りの安物だが、浅く縁が囲んでおさまりがよく、もう7、8年、毎晩愛用している。

ここに置くのは「グラス・箸・さかな1品」の3点のみ。それ以外のビール缶や皿は盆外に置いて、外様と譜代に分ける。箸置きは使わず、箸先を盆の手前左縁にのせるのは、茶道の作法だ。

この盆内を「結界」とする。たとえ食卓は、新聞だのティッシュ箱だの、いろんなものが乱雑に置かれていようとも、盆内だけは、精神を浄化して集中する神聖な別世界にする。そこには美意識がある。そう、私は家飲みに「美学」をもちたいのである。大げさだと笑ってくれ。

缶ビールを注ぐときは「泡で味を起こし、泡でふた」

ビールは注ぎ方で味が決まる。

(写真:米谷享)

缶でも、瓶でも、グラスに向け、できるだけ細い一条の流れを作り、次第に缶を30センチほどまで持ち上げる。そのとき流れを垂直1本に保つのが肝心で、ふらついてはいけない。心の動揺が流れに表れるので、精神集中が必要だ。

するとグラスの中は高くから注がれた勢いで白い泡がむくむく生まれて上がり、グラスの縁を越え、あふれこぼれると見た瞬間にぴたりと注ぎを止める。このとき、泡対ビールは8対2くらい。

そこで缶を置いてしばらく待つ。グラス内の水面が次第に上昇し、泡対ビールが4対6ほどになると、今度は缶をグラスの縁に当て、グラス内側をすべらすようにそっと注ぎ足すと、時間をおいたことで固くなった泡は塊のままぐぐーっと持ち上がり、グラスをはみ出してかなり盛り上がる。ここにマッチ棒をさすと立つ。それも落ち着いて、泡対ビールが3対7になったら飲みどきだ。

写真:米谷享)

 

何をしているか。

それは、ビールの炭酸ガスを活性化させることで、閉じ込められていたビールの味を顕在化させる作業だ。生じた泡がビールの旨味をぐんぐん引き出す。その後の二度注ぎは、顕在化した味を今度は保つよう固い泡でふたをするため。ビールは表面が空気に触れると酸化して味が落ちる。つまり「泡で味を起こし」「泡でふたをする」。

日本酒は世界の酒にない「冷酒、常温(冷や)、お燗」の3つの飲み方をする。

古来、日本酒は温めて飲むものだった。そこから飲み方の作法も生まれてきた。映画などで男が居酒屋に入り「酒、冷やでいい」と言うのは、本来お燗だが、はやく欲しいので省略でという意味だ。

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