日本の「不動産価格」がいよいよ下がり始める理由 中国人はしばらく日本には戻ってこない

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東京五輪後は不動産価格が下がると、以前から予想していたが、やはりそれがいよいよ現実になろうとしている。今後、賃貸を含め、都心の不動産がどんどん値下がっていく。

まず2021年秋の時点で、中国がビジネスビザの発行を停止した。したがって中国人が外に出られなくなってしまった。この状況が続く限り、中国人が海外の不動産を保有する意味がない。当然、中国人はこれまで買いあさった不動産を売却する動きに出るだろう。

一方で、香港や台湾からの物件購入の動きが目立つ。

一番人気が台湾(香港人が購入)。言語も、文字(繁体字)も一緒で住みやすいのは間違いない。続いてシンガポール、日本と続く。同じアジアで、安全保障が保たれている地域を選ぶ傾向にある。そうした事情もあって、アジアの金持ちのセカンドハウスとして日本の人気は高まっている。

しかし、そのような需要は、アメリカを上回る1億人の富裕層(2018年、クレディ・スイスの調査)を擁するという中国のポテンシャルとは比べものにならない。今後、中国人の手放した不動産を台湾や香港の金持ちが購入する可能性は高いが、需要が供給を上回る事態には決してならないだろう。不動産価格の低落が起こらないという観測は不可能である。

都心のオフィスが消えていく

都心部のオフィスの需要も急激に減少している。

三鬼商事の調べでは、2021年9月の都心5区(千代田・中央・港・新宿・渋谷)のオフィス空室率は、平均6%を超えた。5%超えは2015年6月以来5年8カ月ぶり。5区の中でも差異はあり、大規模ビルが多い港区やIT系が多い渋谷区の空室率が高く、製造業の本社が多い千代田区は比較的低い。

コロナ禍でリモートワークが浸透し、オフィスビルの需要が一気に低下した。

そもそも都心の高い家賃のビルに全員が時間と交通費をかけて集まって仕事をするのはナンセンスだと、経営者たちは気づいてしまったのである。

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社員の側も、これからの新しい世の中を担う人びとを中心に、通勤地獄に悩まされないうえ、仕事以外は自由裁量が増えるワークスタイルを歓迎する向きが強い。この傾向は新型コロナの収束後も変わらないどころか、ますます強まっていくと見たほうがよいだろう。

ネットでは「サボっていてもわからず、管理できない」とリモートワークに反対する管理職に対して、「サボるのはお前だけ」「自分がサボっていたから、他人もサボると思うのだろう」「それを管理できるかどうかが管理職としての能力」という書き込みを数多く目にする。リモートワークにもついていけないような置物管理職は、都心のオフィスとともに淘汰されていけばいい。

コロナ禍が収束して「元のように通勤しなさい」と命じる会社はどのくらいあるだろうか。最もリモートワークに適した業種であるIT系の企業が多い渋谷区の空室率の高さがそれを物語っている。都心のオフィス需要は、コロナ前の7掛け程度になると予想される。

渡邉 哲也 作家、経済評論家

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わたなべ てつや / Tetsuya Watanabe

1969年生まれ。日本大学法学部経営法学科卒業。貿易会社に勤務した後、独立。複数の企業運営などに携わる。大手掲示板での欧米経済、韓国経済などの評論が話題となり、2009年、『本当にヤバイ!欧州経済』(彩図社)を出版、欧州危機を警告しベストセラーになる。内外の経済・政治情勢のリサーチや分析に定評があり、さまざまな政策立案の支援から、雑誌の企画・監修まで幅広く活動を行なっている。『「お金」と「経済」の法則は歴史から学べ!』(PHP研究所)のほか、『パナマ文書』『ポスト平成ですごいことになる日本経済2.0』(以上、徳間書店)、『貧者の一票』(扶桑社)、『メディアの敗北』(ワック)など著書多数。最新著は、『「米中関係」が決める5年後の日本経済』(PHP新書)。

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