北海道新幹線で分離「並行在来線」存続への妙手 道とJRには「やる気」が感じられず、廃線ありき

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加えて、地域住民や事業者が新幹線開業後の地域の活性化について考えるようなワークショップの場もまったく設けられていないのも問題だ。前述の後志地域の事業者はこう語る。

「JR北海道と行政が主導して廃線ありきで議論を進めているように感じる。他地域の事例をみるとやり方次第によっては在来線の増収を図ることも十分に可能にもかかわらず、JR北海道が経営努力を何もしていないのが問題だ。バス転換してしまえば鉄道に比べ所要時間が2倍近くかかるし、観光列車の運行による地域産品の消費拡大も見込めなくなる。地元の人間が積極的に発言できるような場が設けられていないのに、廃線に向けた議論だけが進んでいくのではたまったものではない」

現在、北海道知事を務めている鈴木直道氏は、選挙の出馬時に公約として「稼ぐ道政」を掲げ、北海道庁としても地域経済の振興策として「食と観光の推進」を進めているが、並行在来線対策協議会の動きをみると道政の方針から乖離していると言わざるをえない。

新幹線旅客は観光鉄道を好む

閉塞感が漂う北海道とは裏腹に、廃線危機を克服し、北海道とは対照的な取り組みを行ってきた地域がある。それは佐賀県鹿島市を中心とした長崎本線肥前山口―諫早間の沿線自治体だ。

肥前鹿島駅や肥前浜駅を含む長崎本線肥前山口―諫早間は、当初は九州新幹線長崎ルート(西九州新幹線)の並行在来線としてJR九州からの経営分離が前提とされ、貨物列車の運行もないことから鉄路の存続も危ぶまれる状況であった。「在来線の廃止により地域が衰退してしまうのではないか、新幹線と長崎本線のルートが地理的にまったく違うにもかかわらず並行在来線に位置づけられたことに問題があるのではないかという地域の声があった。新幹線の開業により特急列車が大きく減ること、普通列車の今後についても不透明であり、利便性の低下により市民生活に影響が出る懸念がある」(鹿島市関係者)。

観光列車を歓迎する肥前浜駅の様子(編集部撮影)

地域が一体となった粘り強い取り組みの結果、3者基本合意および6者合意を経て新幹線開業後も向こう23年間はJR九州が引き続き列車の運行を行うこととなった。

鉄道の維持に向けた取り組みは、観光面からも地域経済の活性化に向けて好影響を及ぼしている。現在、肥前浜駅で西九州新幹線の開業に向けて観光列車「36ぷらす3」のおもてなしイベントを行っている鹿島市観光協会の中村雄一郎代表理事は次のように話す。

「肥前浜駅での観光列車のおもてなしイベントは2013年の『ななつ星in九州』の運行開始に合わせてスタートしたが、初運行には2000人もの人が集まった。その集客力に度肝を抜かれ、それから1年半にわたって毎週土曜日、地域全体で観光列車のおもてなしを行うことになった」

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